Special issue – June
Japanese modern 日本が誇る 巨匠たち。
日本のモダニズム建築の発展と並行して進化したジャパニーズ・モダンな家具たち。西洋の建築に影響を受けてはいるものの、日本独自の伝統や文化、素材を要素としたデザインは、インテリア界に新たな潮流を生みました。 3月にホテルオークラの別館カメリアで実際に使われていた家具を大量にお買取りさせて頂いたのですが、それこそジャパニーズ・モダンなアイテムばかりで!その家具たちを並べた空間を見たときに、改めてジャパニーズ・モダンの良さを実感しました。 そんな"日本のモダニズム"を牽引してきたのは、世界に誇る"日本のデザイナー"たち。彼らは家具デザインだけでなく、建築家・プロダクトデザイナー等、多岐に渡る分野で活躍してきたのです。 [toc]
ジャパニーズモダンを築いたデザイナー
日本の偉大なデザイナーはそれはもうたくさんで。ひとりひとりの特集で大ボリュームになるのですが、今回は一挙に、まとめてみました。
※在庫があるアイテムに関しましては詳細URLを記載しておりますが、詳細URLが無いアイテムは売約済みとなります。予めご覧下さいませ。
丹下 健三 ( 1913 - 2005 )
日本人建築家代表として最も早く海外で活躍し「世界のタンゲ」として認知された 丹下健三氏 。同氏が手掛けた中でも、国立代々木競技場や広島平和記念公園は誰もが知っている建築物ではないでしょうか。 旺盛な探究心と確かな創造力は建築物だけに留まらず、家具デザインにも。当時、日本では珍しかった成型合板技術をいち早く取り入れ、それまで不可能だった複雑な曲面やフォルムを可能にし、実用化した事でも知られています。 そんな氏の代表作が愛知県一宮市小信中島の「 墨会館( すみかいかん )」建設に併せデザインされたチェア。インプションに1950年代のオリジナルが入荷したことがありました・・・!現在、天童木工からはアーム付きのタイプしか販売されておらず、アームレスはまさしくマニア垂涎の一品。
イサム ノグチ ( 1904 - 1988 )
彫刻家でもあるイサムノグチ氏の作品は、立体的に表すことに長けていて、アート作品を思い起こすような自由で鮮烈な形状の家具ばかり。父親が日本人で母親がアメリカ人の同氏は”和”を感じさせるプロダクトを多く手掛けています。 それこそ、日本の岐阜提灯をベースにデザインされた照明「AKARI」、折り紙にインスパイアされてできた「プリズマティックテーブル」など、日本の伝統をふまえつつ
、繊細でありながら大胆なプロダクトは、日本風の家具とだけ相性がいいのかと思いきや、北欧やミッドセンチュリーのインテリアにもすんなりと溶け込みます。
*左から順に【vitra サイクロンテーブル】、【AKARI】、【vitra プリズマティックテーブル】、【vitra Tea Cup & Saucer】、【vitra ノグチ ・テーブル】 延期していた東京都美術館の【イサム・ノグチ 発見の道】展覧会が6/1から開催されることになりました! (これは行かねばなりません。)
剣持 勇 ( 1912 - 1971 )
イサムノグチと深く交流のあった剣持勇氏。「剣持スツール」という呼び名で親しまれている「No.202」はシンプルな美しさとコンパクトでスタッキングできるという機能性を兼ね揃え、人々に愛用され続けています。
*左・中央【秋田木工 剣持スツール】、右【天童木工 T-5576NA-ST】 家具を探している時に、よく「こちらはMoMA(ニューヨーク近代美術館)の永久展示品です」という文言を目にすることがあるかと思うのですが、(※MoMA永久展示品は、高く評価された作品が選出される、作品の殿堂入りとも言えるべき肩書ともいうのでしょうか)同氏のデザインした「ラウンジチェアシリーズ」は、日本の家具で初めてそのMoMA永久展示品に選ばれたのです。 カブトチェアや、ハコシリーズなど、日本らしさを感じつつ、成形合板の技術が惜しげもなく使われたプロダクトの数々は、和のミッドセンチュリーデザインという新たな(?)風潮を生んだのだと思います。
*左から順に【天童木工 座卓】、【天童木工 キャスターチェア】、【天童木工 カブトチェア】、【天童木工 ハコシリーズ】、【山川ラタン(現YMK) ラタンラウンジチェア】 現在、アームレスチェア C-3150が入荷しており、クッションの張り替えを行っており、6月中にはご紹介できると思います。
柳 宗理 ( 1915 - 2011 )
パーフェクトなフォルム。柳宗理氏が手掛けたプロダクトを一言で表すならば、この言葉が一番しっくりきます。同氏のアイコン的存在でもある『バタフライスツール』がまさにそうです。蝶や、日本の鳥居、縁起のいい天という漢字を連想させる、絶妙な美しいシェイプは一度見たら忘れられません。 立体的な美しさで共通するもうひとつのプロダクトといえば、『エレファントスツール』も。このスツール、habita社での復刻にあのトム・ディクソンが奮闘したという話もあるんです。エレファントスツールはコトブキ → habitat → vitraと製造が変わっていったのですが、なんと、今インプションには
コトブキ社製のオリジナルが入荷しております。オリジナルはコレクター心をくすぐりますね・・・。
*左から順に【天童木工 バタフライスツール】、【エレファントスツール】、【コトブキ60 テーブル】、【コトブキ サイドチェア】 何度も雑誌まるまる1冊で特集されるほど、人気で、知名度が高い氏。何故ここまで有名なのか?と考えてみましたが、やはりそれは家具だけに留まらず、暮らしていくために必要な生活道具をも数多く生み出してきたからではないでしょうか。 「柳宗理デザインシリーズ」はインプションでも愛用しているスタッフが多し。(そして私は今密かにボーンチャイナのポットを狙っています。)
*左から順に【秋田木工 ミラー】、【ステンレス 両手鍋 】、【ボーンチャイナ ポット】、【中井窯 平皿】、【ステンレスカトラリー】
坂倉 準三 ( 1901 - 1969 )
モダニズムの旗手、ル・コルビュジエに師事し、「神奈川県立近代美術館」や「新宿駅の西口広場」などの文化、公共施設であったり、個人住宅や学校、果てはガソリンスタンドや高速道路の料金所のゲートウェイまで多岐に渡る分野で活躍した建築家、坂倉準三氏。パリ万国博覧会での日本館の設計を手がけたり、シャルロット・ペリアンと共に仕事をこなしたこともあり、なにかとグローバルでありました。 氏の亡き後も『坂倉建築研究所』が天童木工と共同で家具を手掛けたり、建築面でも彼のスピリットを引き継ぎ、現代の日本で活躍し続けています。
*写真【天童木工 アントラ―シリーズ 】
長 大作 ( 1921 - 2014 )
坂倉準三主宰の設計事務所でキャリアをスタートし、柳宗理と同時期に活躍した長大作氏。同氏の代表作である、天童木工の低座椅子、そしてIDEEで販売されているダイニングチェアの背もたれと座面は柿の葉がモチーフになっているそう。日本の原風景にあるような素朴さと、洗練された印象を併せもつ、絶妙なフォルムが日本人の心をつかむのかもしれません。 家具は思っているよりも生産の出入りが激しく、好きだった家具がいつの間にか製造中止になっていたり、前まではなんてことなかった家具がいきなり価格が跳ね上がったりしますよね。ですが、氏の家具はいい意味で安定している気がします。年代を問わずに、どの時代でも愛されるから安定した生産が続けられるのではないでしょうか?
*左から順に【天童木工 低座椅子】、【天童木工 Hシリーズ ワゴン 】、【IDEE DINING CHAIR】、【IDEE TOU ZA ISU】、【IDEE IEFT-0442 】
渡辺 力 ( 1911 - 2013 )
リキクロックやソリッドスツール等、一見して派手さはないけれど、端正なフォルムで飽きの来ないデザインにファンが多い渡辺力氏によるプロダクトたち。 時計には見やすさを、スツールにはコンパクトさを。ひとつひとつの家具と真摯に向き合い、それぞれの家具で重要となるポイントを最大限に生かすことを大事にした同氏の家具たちは、時代に左右されないタイムレスな存在であり続けています。
*左から順に【Lemnos リキクロック】、【 METROCS カートンファニチャースツール 】、【METROCS ハンカチ テーブル】、【METROCS ソリッドスツール】、【CONDE HOUSE リキロッカー】
乾 三郎 ( 1911 - 1991 )
仙台の産業工芸試験所で成形合板技術を研究し、後に天童木工へ入社した乾三郎氏。柳宗理はバタフライスツールを完成させるため、氏の元へ訪れたといいます。つまり、美しく完璧なフォルムのバタフライスツールが誕生したきっかけは、乾三郎との出会いでもあったのです。 同氏はデザイナーというよりも、あくまでも技術屋という意識を持ち続けていたらしく、デザイナーを影で支える仕事が多かったようです。 そんな彼の数少ないデザインプロダクトは、やはり成形合板技術が施された家具たちばかり。現在でも天童木工で製造されている座卓、そしてプライチェアがそうです。どちらもプライウッド特有のしなりが生かされています。
*右下【天童木工 プライチェア 】、その他【天童木工 プライウッド 座卓】
吉村 順三 ( 1908 - 1997 )
フランクロイドライトのもとで学んだアントニン・レーモンドに師事し、日本の木造建築とモダニズム建築の融合を果たした偉大な日本人建築家、吉村順三氏。 吉村順三・前川國男・坂倉 準三によって設計された国際文化会館(1955年完成)は2006年に国の登録有形文化財に指定されています。 同氏の建築は日本人の心の深層を読んだかのような、直感的に「住みたい」と思う心の安らぎを感じる建築ばかりでした。和の精神を大切にしつつ、モダンさも併せ持つのは、建築だけでなく、家具にも表れています。
*写真【J-Furniture Junzo Chair】
菅澤 光政( 1940 - )
イサム・ノグチが愛用した事でも知られる、ヘロンチェアを手掛けた菅澤光政氏。 彼はヘロンの前には幻の名作と言われるペリカンシリーズも発表しており、どちらも鳥の姿からインスピレーションを受け、独特な有機的フォルムを生み出していたようです。鳥のように軽やかな脚など、繊細なディテールに心奪われる方も多し。
*写真【天童木工 ヘロンシリーズ】
水之江 忠臣 ( 1921 - 1977 )
イームズやハンス・J・ウェグナーといった名だたるデザイナーたちとも交流を深めていた水之江忠臣氏。かの有名な『前川國男邸』にも展示されているブックチェアが彼の代表作です。 「デザイナーは一生にひとつ、本当に良いものが残せたらそれでいい」 いくつもの作品を手掛けるのではなく、ひとつの作品で何度も改良を繰り返し、大変な労力と時間をかけて家具を製作した彼だからこそ残せた言葉ではないでしょうか。
*左から順に【京都 二葉家具 M-102 】、【天童木工 ダイニングテーブル & ブックチェア】
松村 勝男( 1923 - 1991 )
1956年に渡辺力 、渡辺優と、Qデザイナーズを設立、1971年には長大作、水之江忠臣とともに、「ファニチュア・コレクション三人展」を開催するなど、日本のデザイナーとの関わりが多かった松村勝男氏。 同氏のローコストで生産され続けている家具たちは暮らしに取り入れやすく、ご自宅で気軽にジャパニーズモダンを楽しむのに、とてもおすすめとなっております。
*左から順に【天童木工 ぺスカ テーブル】、【天童木工 ぺスカ チェア】、【天童木工 イージーチェア】、【天童木工 アームレス イージーチェア】
豊口 克平 ( 1905 - 1991 )
トヨさんの椅子やスポークチェアなど、あぐらや正座もできる『日本人のための椅子』を手掛けてきた豊口克平氏。普通であったら注意されてしまう体勢かもしれませんが、椅子の上で自分の好きな体勢を、そんな自由を与えてくれるチェアがあるだけで、暮らしだけではなく、心にもたくさんの「豊かさ」を与えてくれそうです。
前川 國男 ( 1905 - 1986 )
坂倉準三と同じく、ル・コルビュジエに師事し、日本のモダニズム建築を語る上で欠かせない前川國男氏。コルビュジエのようなシンプルで無機質なイメージから、伝統的な日本家屋の心地よさのある建築など、さまざまに手掛けています。「前川國男邸」は一度は訪れたい場所。 最後にご紹介したお二人の家具はインプションではまだお取り扱いしたことが無いのですが、いつかご紹介させていただきたいです。(前川氏がデザインした家具は流通されている物が無く、入荷は滅多に、いやほぼ無いかと思いますが、いつか出会えたら・・・なんて。)
あとがき
今回はジャパニーズモダン・日本の巨匠たちを少しずつご紹介する月刊インプションを書かせていただきました。 本当であれば、このような一言で終わらせる方々ではないのですが、少しでもご興味を持っていただければ幸いです。 かくいう私も、調べているうちに訪れたい場所や見たい家具が沢山でてきてしまったので、コロナがおさまったらすぐ巡礼できるよう、リスト化しておこうかなと思います。