BC工房
紐椅子
最近Amazon primeでよく映画やアニメを観ています。
低価格でこのサービス…いやはや素晴らしい世の中になったものですね。
お買取のご依頼を頂いた際に、お客様のお家へ行くにも一昔前は地図を開いていましたが、GPS搭載のスマートフォンやカーナビの普及により、紙の地図の出番はめっきり減りました。
どんどん効率が良くなりその他の事に時間を使える様にはなりましたが、便利になればなる程に何か大切なものが失われていっているのではないかと、ふと思う事があります。
本日ご紹介させて頂くのは、忘れつつある『大切なもの』を思い出させてくれる椅子です。
渡辺力の処女作であり、傑作でもある紐椅子
>>この商品の詳細を確認する
こちらは日本におけるモダンデザインの礎を築いた事で知られる、『渡辺力』によって、1952年(昭和27年)にデザインされた『紐椅子』。
発表より70年近く経過した現在でも著名なブランドから復刻されたり、デザイン学校にて椅子の製作体験の教材として使われることもある名作椅子です。
オーク材のフレームに木綿紐を張ったシンプルな構造ながら、座り心地の良さにも定評のある紐椅子ですが、戦後間もない物資の乏しかった日本において、手に入れやすかった素材を使用したローコストチェアとして作られたのが始まりでした。
張り地には制作コストを抑えると共に、当時日本のどこの家庭にもあった座布団を背座に敷いて使う事を想定し伸縮性の高い木綿ロープを使用。
また、畳の上でも使う事を想定し座面高は低く設定されています。
複雑な加工を要せず簡単に作る事が出来るよう設計されているにもかかわらず、美しいデザインであることも高い評価を得ている理由でしょう。
シンプルで機能的なこちらの椅子からは『密度の高い簡潔さ』をデザインの基礎とする渡辺力らしさが感じられます。
今回入荷したこちらの紐椅子は上質な無垢材家具を40年に渡り製造し続ける国内家具メーカー『 BC工房 』から紐椅子の組み立てキットとして販売されていたお品物。
組み立て説明書と渡辺力のデザイン事務所『Qデザイナーズ』が製作した原寸図のコピーが付属しており、組み立てる工程も楽しめるようにとキットでの販売がされていたものと思われます。
また、近年復刻された紐椅子は紐の本数が15本、結び目の位置も内側にある等オリジナルとはやや違ったデザインですが、こちらは13本の紐や外側についた結び目からオリジナルを忠実に再現している事が分かります。
渡辺力デザインのファンならば、こちらのほうが魅力的に見えるかも知れませんね。
『何故この形なのか?』『何故この素材なのか?』と疑問に思う事も無く、そこにあるものを当たり前のように使う私達。
今回、紐椅子を見て先人の知恵や技術があって、この利便性を享受できているということを改めて認識しました。
あらゆるものにはルーツがあり、作った者がいる。
全てのものに『感謝』する気持ちを忘れてはいけないなと思わせてくれた椅子でした。