FLOS
TACCIA
単なる明かりではなく、空間そのものの表情を決定づける存在。
どれほど上質な家具を揃え、細部までインテリアを整えたとしても、その空間の印象を最終的に完成させるのは「光」の役割と言えるでしょう。
昼間は自然光が空間に豊かな陰影を与えますが、太陽が沈んだ後は人工照明がその役目を引き継ぎます。
光をどのように操り、どのような雰囲気を生み出すのか。そして機能性だけでなく、美しいデザインとして空間に存在させることができるのか。
照明には常にその両立が求められてきました。
そんな難題に挑み続け、数々の名作を世に送り出したデザイナーたちがいます。
優れた機能美と革新的なデザインで照明の歴史に名を刻んだ、アッキーレ・カスティリオーニとピエル・ジャコモ・カスティリオーニ。
カスティリオーニ兄弟が生み出した名作照明の魅力に改めて触れてみたいと思います。
名作照明「Taccia」を読み解く

シーリングランプを逆さまにしたらどうなるだろう。
カスティリオーニ兄弟のユニークで自由な発想から誕生したのが、テーブルランプ「Taccia」。
1958年にデザインされた「Taccia」。
その独創的なフォルムは時代を超えて愛され続け、照明デザインの可能性を語るうえで欠かすことのできない存在。
そして、「Flos」の哲学と文化的価値を体現する特別な一灯であり続けています。
その魅力は、単に美しいフォルムだけではありません。「Taccia」が生み出す独特の光の表現こそ、この照明を名作たらしめている最大の理由でしょう。


Tacciaを語るうえで欠かせないのが、その詩的なまでに美しい光の表現。
最大の特徴は、熟練した職人技によって生み出される半円形のリフレクター。
光源を直接見せるのではなく、一度反射させた光で空間を照らすという革新的な発想が、柔らかく品のある光環境を生み出しています。
透明なガラス製のボウルの上に、まるで蓋を載せるように配置されたリフレクター。
その軽やかな構成は、オブジェが空中に浮かんでいるかのような浮遊感を感じさせます。
そしてリフレクターのなめらかな曲面によって拡散された光は、湖面に広がる波紋のように穏やかで、空間全体を優しく包み込みます。


ガラスボウルは角度を調整することができ、向きを変えるたびに光の広がり方や陰影の表現も変化。
壁を照らすのか、天井へ光を導くのか。
その選択によって空間はまったく異なる印象を見せ、まるで光そのものをデザインしているかのような体験をもたらしてくれます。


Tacciaの魅力は光だけにとどまりません。
そのシェードを支える堂々とした台座もまた、この照明を象徴する重要なデザイン要素です。
まるで古代建築の円柱を思わせる造形は、どこか記念碑的な存在感を放ち、この照明をイタリアンデザインの象徴へと押し上げた要素のひとつとも言えるでしょう。
しかし、その印象的なフォルムには意外な背景があります。
アキッレ・カスティリオーニは1970年のインタビューで、「Taccia」について次のように語っています。
「このデザインは“ランプのメルセデス”とも呼ばれ、成功の象徴と見なされている。しかし、それはおそらく台座が柱のように見えるからでしょう。私たちは名声を得るためにデザインしたのではなく、単に熱を分散させるための冷却面をつくりたかっただけなのです。」
つまり、私たちがクラシカルで荘厳な美しさとして受け取っている台座は、もともと装飾的な意図から生まれたものではありませんでした。



その正体は、ランプから発生する熱を効率的に逃がすための放熱構造。
ラジエーターを思わせるリブ状のフォルムは、極めて機能的な理由から導き出されたデザインでした。
美しさを追い求めたのではなく、課題を解決しようとした結果として生まれた造形。
その姿勢こそが、カスティリオーニ兄弟のデザイン哲学を象徴しているのです。

照明器具でありながら、光そのものをデザインするための装置でもある「Taccia」。
光を灯している時間はもちろん、消灯している昼間でさえ、その彫刻的なフォルムは空間に確かな存在感を与え続けます。
そして夜になると、柔らかく反射された光が空間に新たな表情をもたらし、住まいに豊かな奥行きと静かな情緒を添えてくれます。
半世紀以上の時を経た今なお色褪せることなく愛され続けるTaccia。それは単なる照明ではなく、光と空間の関係を見つめ直すための一つのプロダクトなのかもしれません。
優れたデザインとは何か。その問いに対するひとつの答えが、この名作の中には息づいているのです。































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