Pierre Paulin

Artifort Ribbon Chair

作品そのものを「家具」として見るか、「アート」として見るか。それによって、その存在が大きく変わるように感じます。

作家が「これは椅子だ」と言えば椅子として、観客が「これはアートだ」と思えば、アートとして受け入れられるものです。

実際に、「椅子にはなぜ脚がなければいけないのか？」という視点を持つことで、従来の枠を超えた革新的な作品を生み出したデザイナーがいます。

本日ご紹介させていただくのは、そんなデザイナーが生み出した歴史的名作チェアです。

「家具」か「アート」か

今回ご紹介するのは、フランスを代表する巨匠“Pierre Paulin（ピエール・ポラン/1927-2009）”の代表作「リボンチェア Ribbon Chair」。

彫刻家だった大叔父、自動車デザイナーの叔父の影響を受け、彼らに憧れて彫刻家を目指しますが、事故による怪我でその道を断念し家具デザインの世界へと転向します。

後に、国際インダストリアルデザイン賞の受賞や、フランスの大統領府であるエリゼ宮アパートメントの内装を手掛けるなど、大きな功績を残します。

1950年代にはTHONET(トーネット)で家具デザインを手掛け、1958年にはオランダのArtifort（アーティフォート）社と関係を持つことにより、ポランらしい近未来的なデザインが誕生します。

1890年にオランダで室内装飾を手掛ける会社として設立された老舗家具ブランド"Artifort (アーティフォート)"。

その名は「芸術（art）」と「快適性（comfort）」を組み合わせた造語から成っており、ポランとアーティフォートのコラボレーションからは、タンチェアやオレンジスライスチェア、マッシュルームチェアなど、名作が次々と生まれました。

1930年代の不況に立ち向かうべく、このキャッチ―なブランド名とロゴを生み、本格的に家具作りに取り掛かった同社は、ピエール・ポランをはじめとする優秀なデザイナーの起用により、その勢いを伸ばします。

1965年に生まれた、ただの椅子にとどまらず、まるで彫刻のような美しさを持つリボンチェア。

宇宙開発が本格化し、スペースエイジデザインが全盛を迎えていた時代背景の中で、イームズに刺激を受け、北欧デザインや日本の美学にも影響を受けつつ、新技術を活用した画期的な作品を生み出します。

折りたたまれたナプキンのようにシンプルでありながらも強い印象を持つ形を目指したポラン。

結果として、ループする背もたれとアームの形状に辿り着き、ホワイトの塗装が施された木製ベースは、まるで地面から生えているかのような有機的なデザインとして完成します。

大胆で斬新なデザインが評価される一方で、ポランは自らの作品について「突拍子もない」と感じ、常に改良の余地があると考えていたそう。

名声に驕らず、より良いものを生み出し続けるその姿勢が、ポランのデザインに深みを与え、世界中のファンから高く評価される要因となりました。

デザインも然ることながら、座り心地も極上。

絶妙な「しなり」と身体を包み込むアームが生み出す安心感、広めの座面に確保された自由なスペース。

ラウンジチェアとしてはやや大きめですが、浮遊感のあるデザインが圧迫感を抑え、軽快な印象を与えます。

どの方向から見ても異なる美しさを見せる立体的なデザインは、陰影を生み出し、空間を変えるアートピースとしても存在感を発揮します。

ポランの斬新で美しいデザインは、時代を超えて多くの人々を魅了し続けており、この美しさは彫刻家を目指していたポランの美術に対する造詣の深さあってのものでしょう。

国内では滅多に見掛ける事の無い、当時のオリジナルビンテージ。 カラーも『リボン』の名に相応しいレッド。

リボンチェアが示すのは、家具とアートの境界を越えた可能性。コレクションに加えるにはもってこいの永遠の名作です。