市川岳人
高杯&燭台
本日は、木工旋盤で削り出した左右対称の美しいシルエットが、安心感と適度な緊張感の絶妙なバランスを生み出す芸術作品" 市川岳人 / Takehito Ichikawa "『 高杯&燭台 』のご紹介♪
黙々と
私が吹きガラスを専攻していた学生時代に、ガラス工場を見学に行った時、「ガラス職人の神様」と呼ばれているご年配のガラス職人さんがおっしゃっていました。
「ガラス職人は、休憩中の練習時間に、馬や鳥のオブジェを作って喜んでる奴と、窯からガラスを巻き取る、吹く練習を黙々とやっている奴とで、そいつが一流の職人になるかがわかる」と。
吹きガラスは吹き棹、陶芸は轆轤、木工は木工旋盤。中心軸から膨らましたり、広げたり、削ったり。素材や道具は違えど、「回転」から生まれるシンプルな手法は、素人目には「自分にも出来そう」と思うものほど奥深く、故に何十年という修練の積み重ねにより高次元の芸術品が誕生します。
「歪んでいた方が味があって良い」とか「楽しんで作れば良い」とか「人と違う事をやった方が良い」みたいな、聞こえの良い事が一切言い訳として通用しない職人の世界。単純な反復作業の連続の中で、「歪みのない」「嘘のない」「終わりのない」職人としての正しさは生まれます。
基礎練習をしている推定50代くらいの職人のおじさんが、70代80代くらいの神様からビシっとダメ出しされている吹きガラスのプロの現場。ハタチになったばかりの当時の自分にとってはとても衝撃的でした。「う~ん、ガラスって難しいよね?」って額の汗を拭きながら苦笑いをして僕にそう言うおじさん。何も言えん!全然わからん!おじさんも十分に上手なんですよ。。職人の世界ヤバっ。・・・いや、マジで。
25年も前の出来事ですが、今でも憶えています。あの時のおじさんは今、神様になったのだろうか・・・?
今回の作家さんはガラス作家さんではなく木工作家さんですが、元々は家具や仏壇を生業としてきた方。もっとわからん世界なので、そもそも技術的にどれほど凄いのかは説明出来ませんが、いわゆる馬のオブジェで喜ぶタイプの人ではないのは明らか。文字通り芯がしっかりしていて、歪みがありません。今回の作品以外にも、同氏の作品は全て同じ技法で作られています。
回転により生まれる左右対称のシルエット。歪みが無い為、視覚的に負担が少なく、安定感と秩序を与え、直感的に美しさが理解できるもの。
自然素材を使用しながら、自然環境にはない歪みのない対称の物は、その技法故に、逆に素材感が強調されます。美しいアウトライン。曲線の連続とエッジの精密さにより、柔らかさと緊張感を同時に与える「形の不思議」。
歪まず、誠実にモノづくりと向き合い続けてきたからこそ生まれる。黙々と続けた時間が生む造形美。作り手は職人なのか?作家なのか・そんなカテゴライズ自体が今無意味なのかもしれず、並んだ左右均等の作品群を前に、それらは、その人が生きてきた道を示しているのかもしれない。そんな事をふと思いました。いや、モノの表面を見て思うだけで、本当の深みはわかっている気になっているだけなのかもしれないけれど。