Herman Miller
Vintage Armshell Chair
最高気温が10度を下回り、気張って寒さ対策をしなければ具合が悪くなる程の底冷えがやって参りました。
機能性インナー、透明なガラスマグを曇らせるようなあったかドリンク、もこもこなスリッパからフリース、そして半纏(はんてん)。食べ物もおいしいものが揃ってきてますので、楽しく乗り切りたいところ。
今回のご紹介は、今が一番短いであろう日の光を楽しませてくれるビンテージのマスターピース。宜しければ最後までお付き合い下さいませ。
新しい事を、探し続けてゆくこと
椅子というものはとてもパーソナル。 ベンチといったものを除けば、基本的には1人用。 シェルフやテーブルみたいに、別々の人が同時に使えるものでは無いのが特徴です。
歴史を辿れば、部族の長や王族といった特権を持つ人々がその威厳を示すアイテムであった椅子は、製造技術やデザインの進歩もあり多くの人が自分の好みに合わせて選択出来るアイテムになりました。そういった意味合いでは、実感は薄いものの良い時代に生まれたのだなぁと思います。
それでも、安楽性と共に重要視されるのがやはりデザイン。 よりパーソナルな意味合いが強いからこそ、その佇まい=持ち主を表すものとして捉え、そしてその他大勢に捉えられます。 だからこそ、自分にマッチする1脚を探し続ける人はいなくならないのでしょう。
そんなこだわり派の人にも自身を持ってお勧め出来る、今回の1脚。 デザインはチャールズとレイのイームズ夫妻。そして、製造はハーマンミラー社になります。
ビンテージのシェルチェアは大きく3(+1)区分で分けられていますが、今回はその2番目に当たるセカンドビンテージ。1955~70年の期間に製造されたものを差しますが、エンボスから1959-1962年の割り合い初期に出来たものと判別できます。
イームズ夫妻は、ちょっとでもインテリアに対してアンテナを張っていればまずヒットする、偉大なデザイナー。 バウハウスという、ドイツで興ったモダンデザインの教育機関。その思想をアメリカで実践するものとして今も存在するクランブルックアカデミーで出会った二人は、ミッドセンチュリー期を代表する二人でもあります。
二人は常に新しいものを探し求めていました。海軍からの依頼を受けて負傷した兵士のために作った添え木は、プライウッドという素材。 これはべニアと呼ばれる薄い木の板を、接着剤を挟んで重ね合わせたもの。
一枚一枚の木が薄いため曲げ加工など用途にあった形に整えやすく、強度の割に軽いというメリットが功を奏したのです。 これは戦後LCWやDCWといった椅子に始まり、多くの名作を生む素材になりました。
そして今回はFRPと呼ばれる素材。ファイバー レインフォースト プラスティック(Fiber Reinforced Plastic)。 このままの響きではちょっと分かりにくいですね。 直訳すると、繊維で強化したプラスティック。プラスティックだけでは不足する強度をガラスの繊維で補った素材です。
もともとは航空機の先端などに見られるレドーム(レーダー機器を防護するカバー)の素材として使われていた素材を、椅子に応用したのです。
そうまでしても夫妻が作りたかったのは、背もたれと座面が一体になったシート。 強度が足りなければ背もたれと座面の間にヒビが入り、椅子として量産は難しかった事でしょう。シートの縁を折り返したデザインもしなりを耐えるディティールとして機能し、大勢を支えるマスプロダクトとして発売にこぎつけます。
そして封入されたガラスの繊維はプラスティックの表面に独特の表情を与え、包まれるような座り心地と共にアメリカンミッドセンチュリーを代表するマスターピースとなったのです。
今回はパーチメントと呼ばれるオフホワイトカラー。パーチメントは日本語にすると羊皮紙(ようひし)。日本ではなじみが少ないですが、ヨーロッパ等では歴史ある紙の一つ。字のとおり羊の皮をなめして削り作り出すそうです。
2枚目の画像は日の当たる場所で撮ったもの。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、光が透き通って見えると思います。
太陽に手の平をかざした時のようにどこか温もりのあるオフホワイト。そして温もりを加えるダヴェルベースが組み合わさってとてもナチュラルな雰囲気を楽しめる組み合わせになっています。
完成されたデザインは合わせ方次第で色々と楽しめる。それもまた素敵なポイントですね。
半世紀以上昔にデザインされた椅子がこうして今も使えるのは、バウハウスから続く「モダンデザイン」が一時の流行ではなく「ヒト」という使う人に寄り添うものであったから。 イームズ夫妻はそのモダンデザインを学び、多くの人が受け入れられる形にまとめ上げました。 新しい素材を探し、完成させた。その姿は多くの人を魅了したからこそ今も使い継がれているのです。
気軽に取り入れ、楽しみながら。その流れに加わってみるのもファンな名作のご紹介でした。