J.L.Mollers
No.80 Dinning Chair
多くの人が探している、「良いもの」。
いろいろな要素が組み合わさって出来上がるものなので一言でその定義をする事は難しいものです。
ですが、今回の1脚はそんな理屈を抜きにしても良いものと分かってしまう1脚。宜しければ最後までお付き合い頂ければ幸いです。
デザイン×クラフトマンシップ×素材
JLモラー。家具というジャンルにおいて最も人気がある国の一つ、デンマークで今も続くファニチャーブランド。
北欧諸国全体がモダンデザインという高い機能性を持つ家具で人気ですが、デンマークはその中心といっても過言ではない国。
過去の名作を範に、変わりゆく暮らしの形に合わせて新しくしてゆく「リ・デザイン」という手法は、提唱者であるデンマークのコーア・クリントに始まり今では北欧から世界へ、様々な影響を与えた考え。
ただし、当時その考えで生まれた多くの名品は優れたハンドクラフトを前提としたものであり、年月を経て後継者問題や効率性、経済的なものなどを要因に閉業してしてしまった名工房は少なくありません。
同じくデンマークのデザイナー ウェグナーが製造元に合わせて工作機械を適切に取り入れた事は、効率性=取り入れやすい販売価格=継続性というサスティナブルな考え方でもあったのだなと感じる事が出来ます。
北欧家具以外にも多くの選択肢が用意された現在、ハンドクラフトはとても貴重なもの。JLモラーはそんな中でも製造過程の大半をハンドクラフトで続けているという驚きのファニチャーブランドなのです。
その理由の大きな一つ、それは完成されたデザイン。
創業者ニールス・O・モラーによってデザインされたプロダクトはそのいずれもが見かける人の目を留めるプロポーション。
幅50 × 奥行き49.5センチとおおよそ正方形の広い座面であるにも関わらず大ぶりな印象はありません。
むしろその大きさを利用して一般的な高さのこの椅子をコンパクトに錯覚させているようにも思えます。
ラダーバックのNo.85、素材の表情を全面に出したNo.75等と比べて今回のNo.80はごくごくシンプル。
ですが目に付く場所が絞られれば、おのずと目線はその美しさに集中します。
屹立する柱のような脚部。後ろ脚はまるで自然に存在する動物の脚をそのままもって来たかのよう。
背もたれは柔らかく後ろ側へ傾斜し、心地よく受け止める様相を呈しています。
そして今回はそのポテンシャルを引き出す素材、ローズウッド。
高級な楽器等で使用される事もありご存知の方も多いかもしれませんが、現在はワシントン条約で保護される貴重な木材。
濃色の木肌に走る黒色の木目は美しく、比重が高い(=目が詰まっている)ためとても堅牢。最高級の材として多くが伐採されたため今ではビンテージでしかお目に掛かる事のできない仕様なのです。
良質な素材を揃え、ハンドクラフトによる手間暇を大勢に納得させる美しさ。今も続いている事に感謝したくなるような素敵な1脚です。
影すら美しさの一部にしてしまうこの椅子を、是非ご自宅で楽しんでみてはいかがでしょうか。