鈴木政夫作
" 二人 "
石彫作品
本日は、彫刻家、鈴木政夫氏の石彫作品のご紹介です。
QH06-73
鈴木政夫氏は1916年、愛知県岡崎市の石工の家に四男として生まれました。
石彫を始めたのは、1935年、19歳の時。
初年兵から戦火に巻き込まれ、29歳から厳しい開墾生活を始めますが、
弟たちは去り、一人残された鈴木氏は、六年間その厳しい生活を続けました。
疲れ果てた妻と子、報われることの無い厳しい生活。
たどり着く場所も見えず居た時、二人の姉から援助を受け、
東京に、一から彫刻の勉強をするため、旅立ちました。
東京では畔柳冶三雄邸の庭先にアトリエを建て、ひたすらモデルと対峙する日々を送りました。
また、同時期に、高村光太郎、木内克氏と出会い、石彫家としての歩みをスタートしました。
今回入荷した石彫作品は、おそらく8~90年代に製作された作品となります。
鈴木氏がモチーフとして繰り返し扱った、二人の人が寄り添う姿。
右側の顔は安らかに眠るような優しい表情。閉じた口は微笑にも見えますが、
長く見ていると、何かに耐えているような神妙さも感じられます。
対して左は、見開いた目、開いた口。
焦点の合わない瞳は、睨むというより虚空を見つめているのか、
口を開き、放心するように見えます。
二人が寄り添う姿は、波乱の時代を経験しながらも、家族や友人に支えられ、
作家として成功を収めた同氏の体験に基づいた温かみが感じられ、
緊張感の中にも、お互いに相手を気づかい、思いやる優しさが表現されています。
錆系の色味が出た、日本特有の石材。
西洋の大理石などをふんだんに使用した彫刻と違い、日本では木彫の歴史が深く、
石彫は、灯籠や記念碑など、芸術よりは生活のなかで親しまれてきました。
石屋が連なる石の町に生まれ、一生かけて石と対峙した鈴木氏。
無から有を生みだす西洋の彫刻とは異なる、
"日本の石彫"を探求した巨匠の軌跡を味わえる良作となっております。