Herman Miller
DCW
「イームズの椅子」と聞いて、どんな椅子を思い浮かべるでしょうか。
カラフルなシェルチェアや、どこか愛嬌のある丸みを持ったフォルム。イームズ夫妻の家具には、プラスチックやファイバーグラスを使った印象的な作品が数多くあります。
けれど、イームズのものづくりを語るうえで、もうひとつ欠かせない素材があります。
それが「木」です。
木という素材に向き合い、その可能性を探り続けたイームズ夫妻。今回ご紹介するチェアも、そんな彼らの探究から生まれた一脚です。
なぜイームズ夫妻は、木という素材にこれほどまでに向き合ったのでしょうか。
その背景には、素材そのものの可能性を探りながら、より身体に寄り添う家具をつくろうとした、彼らのデザインへの探究があります。
木への探求


今回ご紹介させていただくのは、1945年にCharles & Ray Eames(チャールズ&レイ・イームズ)によってデザインされた「Dinning Chair Wood / ダイニングチェアウッド」。通称"DCW"。
イームズ夫妻が世に送り出した多くのチェアの中でも、歴史に残る名作といわれる一脚。
多くのデザイナーや建築家、アーティストなど一流のプロフェッショナルからも称賛され、モダンファニチャーデザインの基礎ともいえる存在です。
家具のデザインだけではなく、素材や製造技術そのものにも強い関心を持っていたイームズ夫妻。
彼らが目指していたのは、ただ美しい形をつくることだけではなく、新しい素材や技術を取り入れながら、より機能的で人の身体や暮らしに寄り添うものを生み出すこと。
その探究の中で、木という素材と深く向き合うことになるイームズ夫妻。その歩みを語るうえで欠かすことのできないものがあります。
それが、第二次世界大戦中に彼らが手がけた「レッグスプリント」です。


レッグスプリントとは、負傷した兵士の脚を固定するために開発された成形合板製の副木のこと。
一見すると、家具とはまったく異なるプロダクトに思えるかもしれません。
しかし、ここには後のイームズの家具づくりにもつながっていく重要な考え方があります。
それは、木を平面的な板として扱うのではなく、人の身体に合わせて立体的に成形するということ。
当時のイームズ夫妻は、成形合板という技術を用いて、軽量でありながら強度を持ち、なおかつ身体の形に沿う曲線をつくり出しました。
木で、これほど自由な形をつくることができる。レッグスプリントへの取り組みは、木という素材が持つ可能性を改めて追求する機会となりました。
そして戦後、彼らの関心は再び家具へと向けられていき、人の身体に合わせて木を成形する。
その技術と経験は、やがて「座る」という行為のための家具へと展開されていきました。

DCWの特徴は、背もたれと座面に施された美しい曲線です。
軽量なベニアシートを成型することで、平面的な板ではつくれない立体的なフォルムを生み出し、身体のラインに沿うような形状に仕上げられています。
木の持つ温かみを残しながら、素材を自由に曲げ、身体に沿うかたちへと変えていく。そこには、イームズ夫妻が
長く追求してきた成形合板の技術が活かされています。
さらに、脚部と座面をつなぐ部分には天然ゴム製のショックマウントを採用。座ったときの動きをしなやかに吸収することで、より快適な座り心地を実現しています。
木という素材の可能性を引き出しながら、身体に寄り添う形と機能をつくり出す。
その美しいフォルムの中には、イームズ夫妻が追求した「素材・技術・人の身体」の調和が込められています。


成形合板によってつくられる立体的なフォルムは、木の持つ自然な表情を残しながら、工業製品としての精密さも感じさせます。
シックな雰囲気を纏うウォールナットの木目や色味は同じデザイン、同じモデルであっても、一脚ごとに違いがあります。
均一につくられた工業製品の中に、自然素材ならではの個性がある。それもまた、DCWを長く使いたくなる理由のひとつかもしれません。
シンプルなデザインだからこそ、木そのものの美しさが引き立つ。
時間が経つにつれて少しずつ表情を変えていくことも、木製家具ならではの楽しみです。


DCWは、ダイニングチェアという名前の通り、ダイニングテーブルと組み合わせるのはもちろん、さまざまな場所で楽しむことができます。
木製のダイニングテーブルと合わせれば、素材の温かみを感じられる落ち着いた空間に。
一方で、ガラスや金属を使ったテーブルと合わせれば、DCWの木の質感がアクセントとなり、少しモダンな印象になります。
また、DCWは複数脚を並べるだけでなく、一脚だけを空間に置いて楽しむのもおすすめ。
リビングの一角や窓辺、ワークスペースなどに置けば、チェアとしての役割を果たしながら、まるでオブジェのように空間を彩ってくれます。
イームズのシェルチェアなど、異なる素材やデザインを持つ家具と組み合わせても、それぞれの個性を引き立てながら自然に馴染んでくれます。

DCWを知ると、イームズ夫妻が追い求めていたものづくりの奥深さが、また違った角度から見えてきます。
木という素材に向き合い、その可能性を探る。そして、人の身体に寄り添う形を、技術によって実現する。
レッグスプリントから家具へとつながっていった彼らの探究は、DCWという一脚の中にも確かに息づいています。
1950年代に生まれたデザインでありながら、今の暮らしの中に置いても古さを感じさせないDCW。
それは、流行に合わせてつくられたデザインではなく、素材と技術、そして人の身体と暮らしに向き合いながら生まれた形だからこそなのかもしれません。































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