内田鋼一
鉄錆膳 & 鉄錆隅切盆
お鍋が美味しい季節がやってきました。
長年実家で愛用していたせいか、鍋料理というと灰釉に菊のような文様があしらわれた土鍋のイメージが湧いてきます。
今思えばあれは萬古焼の土鍋。なんと全国シェア率80%を占めるそうで、皆さんも知らないうちに萬古焼を使っているかもしれません。
まるで枯山水のように
その中心となる土地、三重県四日市市に工房を構え、作陶しながら萬古焼を紹介するミュージアム「BANKO archive design museum」を運営する陶芸家・内田鋼一(うちだこういち)氏。
ところが自身の作品は萬古焼という括りではなく、ヨーロッパやアフリカ、東南アジアなど世界各国で習得した伝統や技術を生かした無国籍スタイル。さらに、蒐集家、キュレーター、地域のプロデュース、飲食店やギャラリーの内装などその活動は多岐に渡ります。
そんな氏のもうひとつの顔ともいうべきは造形作家。鉄工所を営む実家でやきものを始める前から作っていたという金属作品もまた彼を象徴するプロダクトです。
直線によるシャープなシルエットが際立つ、錆び鉄加工が施された膳と盆。華奢なラインと鉄の重厚感、錆による枯れたテクスチャーが生み出す凛とした佇まいが本当に美しい作品です。
40cm角と30cm角の大小のお膳は、食器を載せる台として本来の使い方を全うするも良し、サイドテーブルとして傍らに置くも良し。古典的にも現代的にも使えます。
また、あえて重ねることで小さな収納棚のようにもできますし、飾り台や花台として季節のアイテムをディスプレイするのも良さそうです。
そして、折敷として使いたい小さな脚付きの隅切盆。一見漆黒のようにも見える色合いは、赤や茶色、グレーなどが混じり合い複雑な表情を作り出しています。
載せる器が一層引き立ち、お料理も映える鉄錆の風合いは、お正月などの和を感じるイベント時にもきっと重宝することでしょう。
無駄を削ぎ落した鉄錆の趣はまるで枯山水のよう。見る者の想像力を掻き立てるシンプルな造形に、静寂や侘び寂びの美しさを感じずにはいられません。
しかも日本の美意識を慎み深く表現しつつ、それでいてモダン。和室にも洋室にもすんなりとなじむスタイルレスなところも魅力です。
冬と鍋と鉄錆と。お家で過ごす時間が長くなる寒い季節に、心を落ち着かせてくれる存在になってくれそうです。