Vitra.
Kast 3HU
ベルギーの建築家"マールテン・ヴァン・セーヴェレン Maarten Van Severen"が手掛けた『カスト Kast』サイドボードが入荷しておりました。
もはや共通認識と言えそうな、「ミニマリズム=削ぎ落す」の図式を崩すかのような外観は、入荷後スタッフの間でも話題の的に。
申し訳ないことに、ご紹介に先駆けて販売済みとなっているのですが、こんな機会もそうそう無さそうですので、お付き合いいただければと思います。
あるミニマリストの集大成
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80年代後半から2000年代にかけて活躍したセーヴェレンは、独特のストイックな製造プロセスで知られています。
デザインや構造、素材の特性といったベーシックなポイントだけでなく、色や光、様々な文化、人の心の動きなど、細分化されたあらゆる要素を組み合わせて、アイディアを具現化させました。
膨大な情報量が投影されていながら、プロダクトや建築自体は非常にミニマル。
一般人からしてみると考えただけで気が遠くなる作業ですが、頭の中には明確なビジョンがあったのでしょうね。
しかしながら、セーヴェレンの家具は挑戦的な構造や素材使いから、工業化/大量生産化するのは難しく、キャリア中期までは自身が立ち上げた事務所でデザインから製造を一貫して行っていました。
転機となったのは1996年。
ヴィトラ社と協業を始めることで、新たな素材使いや生産体制の強化が実現。一躍その名が知られるようになりました。現在もヴィトラのロングセラーとしてラインナップされている『.03 ゼロスリーチェア』などもその時期のプロダクトです。
今回入荷したカストは、カラフルにペイントされたスライド扉のポップなイメージ、無機質なアルミとウッドの対照的な質感、モジュールシステムの採用と、様々な要素を積み重ねながらも、一つの構造体として全く破綻のない完璧なプロポーション。
モダンな構成を意図的に破壊するかのように、中段にはウッドシェルフを配置。
初見ではその不思議な構成に一瞬身構えてしまいましたが、黄金比的なバランスの良さがそうさせるのか、今では全く違和感がないのが驚きです。
一見するとちぐはぐな素材も、緻密な計算による適切な配置によって整合性がとれるという好例ではないでしょうか。
また、シェルフ本体はアルミ、脚部は剛性の高いスチールと、質的な適材適所も図られています。
セーヴェレンは惜しくも48歳の若さで夭折されましたが、死の直前で完成した、最後の作品がカストでした。
全ては優れたデザインのため、多様な素材、構成、あらゆるものの結合に捧げた建築家人生。
そんな背景を知ると不思議な構成にも納得のいく、まさに集大成と言える作品です。