YAMAGIWA
K-SERIES "Oba-Q"
この暑さの中、何かが足りないと思っていたら先駆けて鳴きはじめたセミの声を聞いてようやく実感。ああ、これが足りなかったんだな。
言葉にする事は無くても、無意識に人は何かを想い考えているようです。
今回のご紹介は、まるで夢のひとしな。
疲れすぎていると見る事は無く、どこか寝付けない夜に見る事が多い"夢"。
起きてしばらくすると内容も定かではなくなるそんな夢を、現実にした人がいました。
時間(とき)を止めて
今回は日本が世界に誇るライティングメーカー、そして海外からの名品も数多く取り扱うヤマギワ | Yamagiwaの1台。
多くのモダンファニチャーが生まれたミッドセンチュリーという時期。おおよそ1940年から1970年頃には、海外から多くを学び日本の建築家やプロダクトデザイナーが奮闘して名作を作り上げました。
ですが、ある程度の量産を前提とした照明においては自分の不勉強もあるかもしれませんが、家具と比べてそれほど知名度のある作品は生まれていなかったようにも思います。
建築という「箱」。快適性と美意識を強化する「家具」。照明は造作物であり、一般的な家庭ではまだそれほど照明にデザインを求める時期では無かったのかもしれませんね。
それでも1970年代以降、主にポストモダンという潮流から生まれた日本の作品は、国内にとどまらず世界的な評価を得ています。
その筆頭といっても過言ではないのが、今回の照明をデザインした倉俣史朗(くらまた しろう、1934-1991)。1981年以降にはエットレ・ソットサス率いる伝説のグループ「メンフィス」にも参加し、大きなインパクトと功績を残した人物です。
受け入れられたポストモダンが年月によって過ぎ去った時、多くの人々は奇抜な側面を持つそのデザインの刺激に疲れ、落ち着きを見せてきた経済成長と共に保守的なもの、そして対照的にワイルドでヘビーデューティーなものを好むようになりました。
それでも、発表された1972年から人の心を掴み、現在でも作り続けられているのが今回の「オバQ」です。
オバQは愛称。某まんがのキャラクターを連想させるという事からそう呼ばれるようになったそうです。
たしかに、これが布だとしたらその下には何かがいる。そう思わせてくれる造形です。
まるで布のようなかたち。実際記録されている当時の写真の中には試作品と思われるオバQの横で、ハンカチを上からつまんでいる倉俣氏を見る事が出来ます。
折れ目のない、流れる時間の中一瞬だけ見える滑らかな表情。
単なる機能性を追求するだけではない、その姿勢は正にポストモダン(モダンからの脱却)。
乳白色のアクリル板を支柱に被せて、職人が手作業で一気に成形する。
ハンカチをつまんだ時に同じ形が無いように、このシェードもそれぞれに1点もの。
時間を固めたようなシェードは、中にオバケがいなくても重力に逆らうように可愛らしく自立しています。
必要性だけで考えればまず出てこない選択肢。
けれども進んだ時代が生んだ新しいデザインは他に替えがたい魅力を生み出してくれました。
うたかたのようにすぐに忘れてしまう、自分だけの夢の世界。
現実のお部屋の一隅で楽しんでみてはいかがでしょうか。