Herman Miller
DAR Arm Shell chair
風も寒ければ、それに巻き込まれて吹き付ける霧雨も寒い。流石に長袖が無いと体調を崩してしまいそうですね。
襟付きのシャツに腕を通し、軽めのジャケットやカーディガンを羽織る。この季節ならではの楽しみです。
暑さにヒイヒイいっていた時期から変わって、ちょっと落ち着いた季節にはちょっと格好つけられるアイテムが欲しいもの。
今回のご紹介は、そんなワガママを叶えてくれる名脚です。
人生の苦みはまるでエスプレッソ
椅子というものはとてもパーソナル。 ベンチといったものを除けば、基本的には1人用。 シェルフやテーブルみたいに、別々の人が同時に使えるものでは無いのが特徴です。
歴史を辿れば、部族の長や王族といった特権を持つ人々がその威厳を示すアイテムであった椅子は、製造技術やデザインの進歩もあり多くの人が自分の好みに合わせて選択出来るアイテムになりました。そういった意味合いでは、実感は薄いものの良い時代に生まれたのだなぁと思います。
それでも、安楽性と共に重要視されるのがやはりデザイン。 よりパーソナルな意味合いが強いからこそ、その佇まい=持ち主を表すものとして捉え、そしてその他大勢に捉えられます。 だからこそ、自分にマッチする1脚を探し続ける人はいなくならないのでしょう。
そんなこだわり派の人にも自身を持ってお勧め出来る、今回の1脚。 デザインはチャールズとレイのイームズ夫妻。そして、製造はハーマンミラー社になります。
イームズ夫妻は、ちょっとでもインテリアに対してアンテナを張っていればまずヒットする、偉大なデザイナー。
バウハウスという、ドイツで興ったモダンデザインの教育機関。その思想をアメリカで実践するものとして今も存在するクランブルックアカデミーで出会った二人は、ミッドセンチュリー期を代表する二人でもあります。
二人は常に新しいものを探し求めていました。海軍からの依頼を受けて負傷した兵士のために作った添え木は、プライウッドという素材。 これはべニアと呼ばれる薄い木の板を、接着剤を挟んで重ね合わせたもの。
一枚一枚の木が薄いため曲げ加工など用途にあった形に整えやすく、強度の割に軽いというメリットが功を奏したのです。 これは戦後LCWやDCWといった椅子に始まり、多くの名作を生む素材になりました。
そして今回はFRPと呼ばれる素材。ファイバー レインフォースト プラスティック(Fiber Reinforced Plastic)。 このままの響きではちょっと分かりにくいですね。 直訳すると、繊維で強化したプラスティック。プラスティックだけでは不足する強度をガラスの繊維で補った素材です。
もともとは航空機の先端などに見られるレドーム(レーダー機器を防護するカバー)の素材として使われていた素材を、椅子に応用したのです。
そうまでしても夫妻が作りたかったのは、背もたれと座面が一体になったシート。 強度が足りなければ背もたれと座面の間にヒビが入り、椅子として量産は難しかった事でしょう。シートの縁を折り返したデザインもしなりを耐えるディティールとして機能し、大勢を支えるマスプロダクトとして発売にこぎつけます。
そして封入されたガラスの繊維はプラスティックの表面に独特の表情を与え、包まれるような座り心地と共にアメリカンミッドセンチュリーを代表するマスターピースとなったのです。
今回は現行製のブラウンカラー。ちょっと、いや大分渋めなカラーリングです。
これをさらりと取り入れられる方はかなりのお洒落巧者でしょう。
彩度の低いイエローやオレンジを合わせればレトロチックに。
アイアンファニチャーやウッドフローリングの中であればブルックリンスタイル。
青(紺)がお好きな方なら相性の良いアズーロ・エ・マローネで上品に楽しんだりも素敵。
完成されたデザインは合わせ方次第で色々と楽しめる。それもまた素敵なポイントですね。
半世紀以上昔にデザインされた椅子がこうして今も使えるのは、バウハウスから続く「モダンデザイン」が一時の流行ではなく「ヒト」という使う人に寄り添うものであったから。 イームズ夫妻はそのモダンデザインを学び、多くの人が受け入れられる形にまとめ上げました。 新しい素材を探し、完成させた。その姿は多くの人を魅了したからこそ今も使い継がれているのです。
気軽に取り入れ、楽しみながら。その流れに加わってみるのもファンな名作のご紹介でした。