habitat
Elephant Stool
座るための道具としてのスツールは、私たちの生活において単なる実用性を超えた存在です。
形、機能、デザインが絶妙なバランスで融合し、空間に新たな表情を加える役割を果たします。
そしてシンプルな中にも深い魅力を宿し、使う喜びや所有する喜びを感じさせてくれます。
本日ご紹介するのは、デザインの巨匠・柳宗理氏が手掛けた名作「エレファントスツール」です。
匿名の美学
日本が誇るプロダクトデザイナー、柳宗理。
戦後日本の工業デザインを牽引し、数々の名作を生み出しました。
その中でも「エレファントスツール」は、彼の「アノニマスデザイン」という哲学を具現化した代表作です。
彼は作家性を前面に押し出さず、あくまで日常生活に寄り添うデザイン。
その結果、エレファントスツールは個性的でありながらも、どこか匿名性を感じさせる不思議な存在感を持つプロダクトとなっております。
通称『象足』とも呼ばれる同アイテムは、柳氏の工房用にデザインされたもので、1956年に初めて発表されました。
当時、完全一体成型という技術は非常に困難とされていたにもかかわらず、彼はこの挑戦を成功させました。
その結果、継ぎ目のない滑らかなフォルムが生まれ、まるで彫刻のような美しさを持つスツールが誕生したのです。
この技術革新は、デザインの歴史においても重要なターニングポイントとなりました。
エレファントスツールのデザインは、工業デザインの粋を集めたもの。
柳氏自身がスツールを使い、その使用感を確かめながら形のバランスを探求し続けました。
座り心地の良さだけでなく、スタッキング機能による美しさも兼ね備えており、まさに「用の美」という言葉が体現されたアイテムです。
その滑らかな座り心地は一体成型ならではで、日常の使いやすさと美意識が見事に融合しています。
今回入荷したのは、2000年にイギリスのhabitat社が復刻したFRP製の第二期モデル。
このモデルは2年ほどの短期間でしか製造されておらず、現在市場に出回っている数は極めて少ないため、非常に貴重なアイテムとなっております。
現在、vitra社ではポリプロピレン製のエレファントスツールのみが販売されているため、FRP製のものは非常に希少。
柳宗理氏が追い求めた「アノニマスデザイン」は、個人の名声や作家性を前面に出さず、生活に溶け込む普遍的な美を目指したものでした。
しかし、その哲学の裏には、時代を超えても価値を保ち続けるものを作り上げるという強い信念が込められています。
エレファントスツールは、その象徴として、作家性を感じさせないシンプルなデザインでありながら、長く愛され続ける理由がそこにあります。
このスツールを通じて、柳宗理のデザイン哲学とその深い思いをご堪能ください。