Ercol
hoop back chair
昨今人気の留まる事を知らないモダンなアイテム。バウハウス、ル・コルビジェやシャルロット・ペリアンたちによるチャンディーガル都市計画、メンフィス、ジャパニーズモダン等と変わりゆく生活に家具というカタチを与えたマイルストーンなアイテム達をテレビから雑誌、各メディア等でよく見かけます。
今回のアイテムはそういった個性が先に来るデザイナーズプロダクト、とはちょっと異なる雰囲気。
人間が結局は生き物である事から離れられないと、どこか安心させてくれるアイテム
宜しければ最後までお付き合い下さい。
木の美しい椅子
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突然ですが世の中に木の椅子は沢山あります。どちらかというと木の椅子が大多数なのかも知れません。
金属やプラスティックが素材として一般的になったのは近現代から。それまでは木の他にはあっても石材位のものだったと思われます。
石材に関しても人が腰掛けられるサイズになると、日常での持ち運びはほぼ不可能な重さになります。
採集が容易で、加工がしやすく、軽量。それを満たす木材というものは家具だけではなく、人の暮らし全体に対してありがたい存在であった事でしょう。
それでも椅子の形をしたものは基本的には権力者たちのもの。
そのステータスの高さを表すアイテムとして細工を凝らされた豪奢な椅子は非常に高価であり、市井の人々が椅子というアイテムに美しさを楽しめるようになったのは、工業化による大量生産が可能になる時期以降となります。
例えば、アンティークでも人気のアイテムにトーネットのカフェチェアがあります。これは創業者であるミヒャエル・トーネットが1856年に特許を取得した「曲木」と呼ばれる技術によって造られた1脚。
木材を蒸し上げ熱いうちに治具にはめて力を加える事で、無垢材を切断する事なく曲げる事が可能に。
細い木材を繋ぐだけでは得られなかった強度は美しいフォルムを可能にし、ピカソやル・コルビジェといった審美眼を持つ著名人もトーネットの椅子を愛用するまでに至りました。
時は移ろい1898年 10歳の頃にイギリスへと移住したイタリア系の移民であるルシアン・アーコラーニ。苦労しながらも現地の専門機関でデザインとドローイングを学び、老舗家具メーカー フレデリックパーカーからの招きによってハイ・ウィルコム地方で家具の仕事をはじめ、1920年にはそこに工場を構えます。これがアーコール社の始まりです。
余談ですがアーコラーニ氏はイギリス家具で人気の高いジープラン創業者の一族と親しく、なんと工場は鉄道の線路を挟んで向かい側にありました。
現在でも人気の英国家具が同じ場所で造られていたとなると、何か運命めいためぐり合わせを感じさせてくれますね。
美しいデザインの椅子。安心感のある太さを持った背もたれのフープは曲木によって綺麗な形を表現しています。
無垢材のパーツを組み合わせながらも接続部は太く、先端は細くする事でデザインの繊細さを感じさせてくれます。
背もたれを走るスポークは4本。他に5、6本とバリエーションがあるのですが4本は個人的にイチオシ。フープの太さとバランスが良いので一番素朴さを感じられる本数だと思います。
座面はエルム材。独特の杢目が目を惹きます。座面以外がビーチ材でナチュラルな色味なので、少し濃さのある座面がデザインの重心になっています。
座刳り(ざぐり)とよばれる柔らかな曲面の掘り込みがなされているので、板座ながら収まりのよい座り心地です。
木材の違いを愉しみ、美しさのための強度を得る技術を用い、多くの美しい椅子を市井の人々に届ける。様々なめぐり合わせを大切に実直な仕事を続けたアーコールらしいアイテム。
是非ご自宅の、日の当たるお部屋に置いて頂きたいです。
この椅子は残るシールなどから1960年代に製造されたものと思われます。
2010年には創業から100年を数えたアーコールですが、この椅子はその歴史の半分以上を過ごした立派なビンテージ。年月を経てもなお優しい佇まいは、木の椅子の1つの完成形と言っても過言ではないと思います。
半世紀を超えて身近にある事を望まれた「美しい木の椅子」。多くの人に使い継がれた価値ある1脚を、この機会にいかがでしょうか。