artek
Armchair 401
日差しは強くありませんが、気温としてはちょうど良いくらい。寒すぎず、風がそよげば心地よいお日取りです。
実は強いという紫外線対策をして、できる事なら散歩や美術館の散策なんかを楽しみたいですね。
今回は、そんな穏やかな空気感に似合う名作をご紹介。
宜しければ是非最後までお付き合い下さいませ。
森、白い机、そして土地の伝統
>>この商品の詳細を確認する
日本から、遠く離れた国フィンランド。
北欧と呼ばれるヨーロッパの中でも高い緯度に位置する国で、夏は太陽が沈まない白夜(びゃくや)、冬は一日中太陽が昇らない極夜(きょくや)という現象が起こります。
日照時間が極端になるため日差しの中で活動出来る時間は少なく、その結果過ごす時間の増える建築やそのインテリアに対して並々ならぬ情熱が注がれています。
そんなフィンランド出身の建築家・デザイナーのアルヴァ・アアルト(1898-1976)。
モダニズム建築が隆興していた20世紀初頭に於いて、アメリカやドイツ、イタリアといった国々に並ぶ世界の巨匠として評価される人物が、今回のアイテムをデザインしています。
当時は建築とインテリアという切り分けは今ほどに無く、手掛けた建築物の内装から使用する調度家具までトータルにデザインするのが一般的だったようです。
その中で生まれたパイミオ アームチェア(1932年)や、スタッキング出来るスツール60(1933年頃)などはのちにアアルトのプロダクトを取扱い・販売するたに設立された会社アルテック | artekでも、切れる事のない名作として評価されています。
(※祖師ヶ谷大蔵店に入荷した
スツール60と。)
ちなみに先述のパイミオというのはサナトリウムという結核のための療養施設。抗生物質という効果的な治療方法が確立するまで(臨床結果が発表されたのは1945年)、空気の良いところで安静にするのが最も良いとされていた頃。
設計競技に案を提出したアアルトはそのタイミングで病気に罹ったという経緯もあり、療養者が回復するまでのあいだ繊細で敏感になるという性分を理解して、よりこころよい面持ちでいられるよう設計に臨んだそう。
人の容れ物である箱としての要素はもちろん、その中で過ごす人々の目的に限りなく寄り添ったその姿勢は建築だけに留まらず、プロダクトデザインの中にもよく表れています。
1933年に発表された401 アームチェア。同じアームチェア繋がりでもパイミオがラウンジチェアのような趣なら、今回はリクライニングチェアのような印象。
頭部近くまでしっかりと姿勢を保持するハイバック仕様のため、より高い安楽性をお求めの方にお勧めしたい1脚です。
アアルトのプロダクトが人気である要素の一つである、モダンとぬくもりの同居。
例えば同時期のモダニストで有名なミース・ファン・デル・ローエやル・コルビジェ、マルセル・ブロイヤー達のアイテムにはスチールの板材やパイプといった金属素材が多用されています。
ブロイヤーの代表作
ワシリーチェアはアアルトの自邸でも使われていたなど強い興味の対象であった事が伺える、細くも強靭な素材で可能になる「モダン」なアウトライン。
これを木によって成し遂げた点にアアルトの良さが秘められています。
(※ちなみにブロイヤーは、のちのナチスから逃れるために移ったイギリスの時代に、
木を使用した作品を多く発表しています。)
(スツール60より、Lレッグ)
(401アームチェアより、ラメラ曲木)
フィンランドに多く自生していたバーチ(樺)材に切れ込みを入れ、薄い板を挟んで曲げる「Lレッグ」という技術。無垢材の強度と雰囲気を保ったままに曲線を描く技術はスツール60などでご存知の方も多いかと思います。
そしてもう一つの根幹技術である、厚みを整えたバーチ材を複数枚揃えて曲げる「ラメラ曲木」。401はこの技術が採用されているアームチェアです。
プライウッドと呼ばれる成形合板が薄いベニア(単板)を木目が直角に重なるように圧着するのに対して、ラメラ曲木は厚みのある板を木目を揃えて圧着する技術。
無垢材における風合いと強度、そしてしなりに強く流麗なカーブを描ける成形合板のメリットを高い次元で両立させた技術は、ほかにタンクと呼ばれる41 アームチェアや軽やかさが想像を超える900・901のティートロリー、お探しの方も多いウォールシェルフなどの設計を支えています。
木目が揃う事で、プライウッドの一種でありながらも色味の変化が少なく上品なイメージ。
S字を描いたフレームはカンチレバーという構造(プールの飛び込み台と同じ仕組み)で、バネのように弾性のあるしなりを感じられます。
ラッカー仕上げは普段に使いやすく、ゆっくりとした経年変化も魅力の一つ。
またシートを支えるフレームですから、出来る限り影響が少なくなるようにしたいもの。
このパーツは1枚のラメラ曲木から2つに切り分けて製造されており、素材単位で狂いが出ないように配慮されているのです。
アームの裏にある、揃えられた数字はその証。ひそやかですが嬉しくなるポイントです。
そしてシートもフレームに負けない魅力を備えています。
木枠の中にスチールのスプリング、シーグラス(海草)、チップウール、ウレタンフォームと当時の製法を感じさせるクラシックな造り。
フェザーにウレタンのような感触とは対照的に、しっかりと体重を受け止める座り心地はカンチレバーの仕様とピッタリです。
そして、座面の膝裏あたりに付けられた段差。
気が付きにくいのですが、深く腰掛けた体勢から立ち上がろうとした際に踏ん張りやすいように、もしくはふくらはぎで挟んでと身体を起こしやすいように考えられたディティールと思われます。
新しい事を表現するだけではなく、使う人の不便を限りなく少なくするための目線。
このバランスこそが、アアルトが1世紀弱にわたって多くの人に愛される理由なのだなと深く感心させてくれるポイント。見える箇所も見えない箇所にも、沢山詰まっていました。
ほのかに視界を遮るヘッドサイドはより自分の世界の中にフォーカスを促し、ゆりかごのように揺れるフレームと合わさって静かな時間をもたらしてくれます。
ただ寛ぐだけではなく、どちらかというなら緊張感を残した雰囲気を作りたいという方にはきっと気に入って頂けると思います。
アイノが好きだったというゼブラファブリックをまとったまさにアアルト夫妻らしい1脚。
他のファブリックでは見かけた事の無い、ボタンの代わりにハトメが付けられた仕様もスペシャルです。
1936年、アイノ・アアルトがボルゲブリック・シリーズで金メダルを獲得したミラノ・トリエンナーレでも展示された自信作。
もしお気に召して頂けたなら、是非お手元で、使いながらその魅力を楽しんで頂けたら嬉しく思います。