EDSBY VERKEN
Mademoiselle Lounge Chair
一気に、寒くなりましたね。
ふらりと家で視聴した動画で見かけた、「秋をすっとばして冬と感じてしまった」という発言に頷くばかりです。もうちょっとその間の、心地良い気温の部分が長く欲しいなと思いますよね。
とはいえ、寒くなった今はまさに巣ごもりの準備期間。是非お気に入りを見つけて心地よいお部屋をお作り下さい。きっと今回のチェアを好きになる方も居るはずです。
淑やかに
イルマリ・タピオヴァーラ(1914 - 1999)。フィンランドを代表するデザイナーが今回の椅子を手掛けています。
ル・コルビジェやアルヴァ・アアルト等歴史的な建築家の基で働いた経験、そして多くの人に知られるきっかけとなったヘルシンキのドムス・アカデミカの内装デザインから生まれた作品等が良く知られていますが、もう一つの大きなきっかけがタピオヴァーラの知名度を大きく引き上げています。
それはファネットチェアに始まる優れたマスプロダクト。
今回のチェアにおける製造元でもあるEDSBY VERKEN社が、主幹業務の一つであるスキー業界から撤退する時に余ったバーチ材を活用するデザインをタピオヴァーラに依頼。
そうして出来上がったファネットチェアは、クラシックなスポークバックの印象を残しつつも、軽く丈夫なプライウッド、そして機能的なモダンデザインで人気を博し、生まれたスウェーデンだけでも500万脚、さらには様々な国で製造されるヒット商品になりました。
多くの人が望む「新しく」「快適な」椅子。そして製造元の「問題を解決」する。
さらにはそのアイデアとして、フィンランドにもとから存在した椅子を「リ・デザイン」する。
自国の優れた文化を繋げるためには、常に今に相応しい形になる必要があります。
モノづくりというものが歴史の中で磨かれていく事を知っていたからこそ、自分のデザインアプローチの中に生まれ持った環境を意識する。
様々な要素を満たした結果が、今もこうして愛されている事に納得してしまう理想的な「プロダクトデザイン」となり、タピオヴァーラのアイテムの中に存在しています。
マドモワゼルはスポークバックやプライウッドのシート、リズムのある脚部とファネットとの共通項を感じさせる1脚。
たっぷりとしたシートから立ち上るスポークは頂点の笠木(かさき)に向かって集い、ゆったりとした座り心地と大ぶり過ぎないシルエットを描いています。
また、恐らくは立ち座りの荷重を分散するためと思われますが、座面裏における小さなピラミッドのような積み木がどこか愛らしく、見えない箇所の工夫が静かに足元を彩ります。
前回のドムス ラウンジチェアでも感じた事ですが、タピオヴァーラの作品に触れるたびに、「どうやったらみんなの役に立つのか」とでもいうような姿勢がひしひしと感じられます。
伊達では無く、本当に必要なものを。今可能な手段から最適なものを探して。
探したものを実現出来る力こそが、デザインの本懐。そう静かに語っているような気がします。
巨匠のもとで学んだ、古典や伝統の先。「モダン」という概念を強く信じていたからこそ生まれた、タピオヴァーラという偉大な人のフィルター。
是非使いながら楽しんで頂きたいと思います。