EDSBY VERKEN
Fanett Stool
世の中には新しい地平を切り開くために、メーカーが率先してエポックメイキングなアイテムを作り出す事もあります。
ですが逆に、今直面している困難を解決するためにメーカーがデザイナーに依頼をするという、ある意味頼みの綱的な流れで作られるアイテムも実はまま存在します。
デザイナー側の視点に立った時、モチベーションに繋がるのか個人的にちょっと疑問に感じる部分はありますが、それでも今ある手札から最善手を選び出す事が出来るデザイナーというのは、やはり素晴らしいと思わずにはいられないところがあります。
今回のご紹介もそんな裏話があるアイテム。宜しければ最後までお付き合いください。
他になにもいらない
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今回のご紹介は、北欧ビンテージのスツール。スウェーデンのEDSBY VERKEN社によって製造された1脚です。
EDSBY VERKEN社は1899年創業のファニチャーメーカー。このシリーズにはチェアとスツールがあり、いずれも高い完成度を感じさせてくれます。

デザイナーはフィンランド出身のプロダクトデザイナー、イルマリ・タピオヴァーラ。木製によるアイテムを多く手掛けているのが個人的な印象です。
ドムス・アカデミアのためにデザインされたハーフアームのドムスチェア、低目の座面から一つに集うような綺麗なスポークが美しいマドモアゼルチェアと木が持つ魅力以上の、他とは一線を画す美しさのアイテムが多いデザイナーです。

先述のお話ですが、今回のスツール裏にはEDSBY VERKEN社の経営戦略がひそんでいます。
もともとはスキー用具と家具を製造していた同社。スキー用具の製造から撤退する事になり、処分しなければならなくなった大量のバーチ材を家具として活用する事生まれたファネットシリーズ。
座面にはチーク材のプライウッドが使われていますが、ターニングレッグと呼ばれる特徴的な脚はそのスキー用のバーチウッドで作られているなんてこと、言われなければわかりませんよね。
やむを得ず出来上がったアイテム(というのは言い過ぎでしょうか)として生まれたとは考えられない、丈夫で、軽くて、美しい椅子たち。実際当時は子供でも軽々持てるという広告が打たれたほど。
実際に重量はあるのですが、手にした時や椅子を引いた時にそのふわっとした軽さを感じて頂けるかと思います。

タピオヴァーラが美術大学で学んでいた1930年代はまだ身近では無かったプロダクトデザイン。
恩師からは純粋に美術に専念できる個人的な依頼を受け、悪である産業には手を出さない事をアドバイスされましたが、タピオヴァーラは心から尊敬していた同じくフィンランドの建築家・デザイナーであるアルヴァ・アアルトの理念に共感し、プロダクト(インテリア)デザインを学ぶコースへと進みます。優れた機能で美しいモダンな家具を、皆が手に取れるように。
その後の活躍は、今に残るアイテムが教えてくれています。

モダンという革新的な概念に心を打たれていたからこそ、美しさはもちろん戦後乏しい物資の確保、製造工程、物流方法といった消費者へと届くところまで目を凝らして出来たファネット。インプションで出会う事が出来て嬉しく思います。
今回のスツールは早くも旅立ってしまいましたが、お買取りのご相談は随時お受けしております。次の方への引継ぎをご検討されている方は是非一度お声かけ頂けますと幸いです。(一緒に写ったピルッカチェアももちろんお待ちしております!)
