実用的で、美しく
六月もいつの間にやら中旬を過ぎ、陽炎が立ち上るような夏ももうすぐ。 雨の降らない六月はまるで旧暦の呼び名である水無月(みなづき)をそのまま体現しているようです。 とはいえ今週の後半からは雨が降る模様、嬉しいやら悲しいやら。 足元が悪くなるのでしっかりと準備して過ごしたいですね。 今回は、多くの人々を支えてきた庶民のための家具、アーコール。 現在祖師ヶ谷大蔵店に複数点の入荷がございましたので、駆け足ながらご紹介。 是非その魅力を一緒にご覧頂ければと存じます。Pick up items
アーコールはイギリスのファニチャーブランド。
1920年にイギリスはハイウィッカム地方に創業しています。
ハイウィッカムはイギリスの南方、首都であるロンドンと最高学府のあるオックスフォードの中間あたりに存在する都市。
ロンドン方面へ流れるテムズ川に合流するワイ川「Wye」、そして古い言葉で木のある谷を意味する「combe」という言葉が由来にあり、豊富な木材とそれを利用した家具づくりが盛んな土地柄でした。
家具、とりわけ人を魅了して止まないアイテムであるチェアで大きな影響を及ぼしたウィンザーチェアというカテゴリー。アーコールが製造した今回の椅子の何点かはウィンザーチェアに含まれます。
それは農村に住む手先が器用な人が自分や家庭用に作った簡易的な椅子が始まりでした。農作業の無い夜や冬の間の副業として習熟する人は増え、壊れにくい優れたデザインがゆっくりと醸成。
そして18世紀、蒸気機関の発達によって起こった産業革命やそれに伴う人口の増加に対応するため、パーツごとに製造をする人、組み上げる人、仕上げをする人と分業化は進みます。
それにより、ワイ川から首都ロンドンへ水運も含めて利便性の良いハイウィッカムは家具の一大生産地となり、今でも続く長い歴史を紡いでいるのです。
Hoop Back Chair
そのウィンザーチェアの完成形の一つと言えるアーコールのチェア、まずはフープバックから。
フラ「フープ」でお馴染みの輪っかで囲われた背もたれが特徴的な意匠です。
フレームにはターニングレッグと呼ばれる絞りの掛かったパーツが用いられ、脚部からアームまですっきりとした中にリズムがあるデザインとなっています。
基本的なパーツはビーチ(ブナ)材ですが座面にエルム(ニレ)材が使われているのでとても表情豊か。
アーム付きで快適にお過ごし頂ける1脚をお探しの方に。
Smokers Chair
(※左:スモーカーズ、右:フープバック)
こちらはスモーカーズというちょっとアダルティなネーミング。
ウィンザーチェアの種類の一つにスモーカーズボウという椅子がありますが、当時は紳士淑女の社交場であるカフェやパブ等で寛ぎながら紫煙を楽しむための椅子として使われていました。
歓談のためという性格もあって、座面やや幅広でありながら背もたれは低く、弓なりの背もたれから続くアームはハーフアーム程度の控えめな長さ。
先程のフープバックが一の腕全体を降ろして休息のために使うなら、スモーカーズは腕を預けてリラックスしてコミュニケーションするためのもの。
使いどころが違うから、少しずつ何かが違う。それが楽しめる個性になっているのが面白いところですね。
Double Back Chair
そして可愛らしくも風格ある1脚。
逆三角形のシルエットがとてもスタイリッシュですが、なんとこれはもともとスクールチェア。
イギリスの学校で使うために、サイズも5段階。背もたれにある色は大きさに応じて小さい方から白黄赤青緑と塗分けられているそうです。今回は赤色なのでちょうど真ん中。
スタッキングが出来るように、フレームワークもちょっと特徴的。
アパレルブランドとして不動の人気を誇るマーガレットハウエルも、幼い頃に使った思い出が忘れられずにアーコールに復刻を持ちかけたというエピソードのあるシリーズ。
ダブルバックと呼ばれる背もたれが2本あるタイプは復刻されていないので、より貴重なビンテージ。子ども用のサイズではありますが、大人が座っても安心な1脚です。
Refectory Table
そして最後を飾るはダイニングテーブル。リフェクトリーテーブルという名前が付いています。
修道院や寄宿学校の食堂(リフェクトリー)で使われていたという、キリスト教文化の流れを感じる事が出来るテーブルです。
こちらは後年リペイントが施されているものですが、清潔感に繋がる軽やかな白色はエルム材の天板とベストマッチ。
使い継がれた雰囲気はあるものの、それがとても素敵な魅力になっています。気兼ねなく使える素敵なビンテージをお探しの方にこそお勧めしたい1台です。
最後に
いかがでしたでしょうか。
イタリア系移民であった創業者ルシアン・アーコラーニ。それまで美しくも無骨な雰囲気のあったウィンザーチェアをはじめとした家具たちは、アーコールのデザインで軽やかに、より洗練されたものになりました。
ただ美しいだけでもなく、使うシーンに応じた機能性が備わっている。その必要性からくる美しさは時代を経ても無くなる事はないのでしょう。
今ならお気に入りを選べる良い機会となっておりますので、どうぞこのチャンスをお見逃しなく。











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