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S-5016 低座椅子
高度経済成長期を迎え、暮らしは大きく変わり始めた日本の50〜60年代。
ダイニングセットやソファなど、椅子を使う生活が少しずつ広まりながらも、多くの家庭にはまだ和室がありました。新しく建てられた団地や住宅にも畳の部屋があり、椅子と床座の暮らしを行き来していた時代です。
日本の暮らしを、椅子にする

そんな時代に生まれたのが、天童木工の低座椅子です。
デザインを手掛けたのは、建築家・坂倉準三のもとで学び、戦後日本のモダンデザインを支えた長大作。
歌舞伎俳優・八代目松本幸四郎の依頼をきっかけに誕生したことでも知られています。


この椅子は、日本人の暮らしの中で変化しつつあった座る高さを形にした椅子なのかもしれません。
座面高は約29cm。一般的な椅子よりも低く、畳に座る暮らしにも自然になじむ高さです。床座と椅子座、そのちょうど中間にあるような感覚があります。
実際に座ると視線は自然と低くなり、不思議と心が落ち着きます。


興味深いのは、日本の暮らしに寄り添う椅子でありながら、その表現に当時最先端だった成形合板の技術を用いていることです。
もし和風を目指すのであれば、格子や座敷に似合う意匠を取り入れる方法もあったはず。
しかし、この椅子はそうではありません。
脚から背もたれへと続く滑らかな曲線や、無駄を削ぎ落とした構造によって、日本人が心地よいと感じる佇まいを表現しています。
新しい技術で、日本の暮らしや美意識を形にする。その発想こそ、この椅子が今も色あせない理由なのかもしれません。

深く身体を預けるというより、床に座るような自然な姿勢のまま身体を支えてくれる座り心地。
座面が低いため足裏が床にしっかりと付き、床とのつながりを感じながら、安定した姿勢でくつろぐことができます。

この低座椅子が表現しているのは、和の意匠ではありません。
床に近い目線や、自然な姿勢、畳と椅子を行き来する暮らし。そんな日本人の身体感覚を、一脚の椅子へと置き換えています。
日本の暮らしを、椅子にする。
長大作が残したのは、そんなモダンデザインだったのかもしれません。































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