Louis Poulsen
Moon Pendant Lamp
14~15世紀東欧を舞台に宗教的異端とされていた天動説を巡る物語の漫画『チ。―地球の運動について―』が最近のマイフェイバリットです。先日最終回を迎えたばかりの同作、手塚治虫文化賞受賞(しかも最年少!)のニュースで見聞きした方もいらっしゃるかもしれません。 2021年末の前澤勇作氏による日本の民間人として初の宇宙旅行や、スペースX社・ブルーオリジン社に代表される航空宇宙企業の目覚ましい躍進等、新しい宇宙時代の先触れを感じさせるイベントが多い昨今。今年は『トイ・ストーリー』のバズ・ライトイヤーを主人公にしたスピンオフ『ライトイヤー』が公開予定など、フィクション・リアルを問わず宇宙にまつわる話題が多く、スペースファンボーイとしてはほくほくな日々です。光に見出した色
>>この商品の詳細を確認する 遡って1960年代後半、宇宙開発競争は人類を月に送り込こむ程までに激化しました。そして宇宙時代の到来を思い描き、宇宙的で有機的な曲線・サイケデリックな色彩を取り入れたデザイン"スペースエイジデザイン"が流行。 スペースエイジを代表するデザイナーと言えば、ヴェルナー・パントンは間違いなくその一人でしょう。パントンチェアやファントムチェア、照明"VP Globe"シリーズで有名ですが、今回は宇宙ブームに先んじて1960年にデザインされた氏の独立初期の作品"Moon"ペンダントランプのご紹介です。 複数のリングで構成されるシェードが特徴的、その角度によって様々な表情を見せてくれます。その名前の如く月の満ち欠けの移ろいを表現したかのようなランプです。 ビンテージ品には金属製とアクリル製シェードの2種類が存在し、現行では金属製のみの復刻となっています。特にアクリル製は製造年数が少なく、デンマーク本国でも入手困難だそう。 こちらはアクリル製の個体、本来は9枚のシェードで構成されているのですが、外周の一枚が欠損してしまい8枚となっています。残っている方にも若干ひび割れの補修痕が見受けられますが、よくぞ生き残ってくれた…と"感謝"の念に堪えません。 シェード自体が透過する光によって仄仄とした幻想的な乳白色に輝く様はまるで月のよう。 完全な状態で覆ってもある程度の光量が担保されるのがアクリルシェードの嬉しいところ、明るさを気にすることなくシェードの配置をお楽しみ頂けます。 パントンは近未来的造形の流行を先取りしていたのか、時代と作風がたまたまマッチしただけなのか。今となっては定かではありません。少なくともこの作品は流行に寄らない、光と色と素材それぞれの関係性の面白さ・可笑しさの探求の痕跡に思えます。 可動式のシェードは、このランプが「光の量を調整するもの」を脱した乳白色に発光するひとつのインテリアエレメントであることを物語っています。ここに氏の生涯を通じたテーマである「色」と「光」の一端を見出すことが出来ます。 光学・数学的なアプローチを追求することで「光」の機能に迫った同時期の北欧らしい照明とは方向性を異にする、氏の特徴的な色使いなり、照明計画なり、色と空間・建築の関係性の中で色彩を与える手段としての「光」を志向する端緒となった作品と言えるのではないでしょうか。 スペースエイジデザインやサイケデリックな色使いのイメージが強い氏ですが、注意深く彼の照明設計を見てみると白い光源がポイントで用いられている事や、本作や”Mushroom”、”VP EUROPE”など「白」の照明作品の存在はとても興味深いです。 照明デザインの巨匠、インゴ・マウラー氏がヴェルナー・パントン回顧展に寄せた言葉にそのヒントを見つけました。“もう何年も前に彼はこう言った。私は今でもそれをとても面白く思う。「白という色には税金をかけるべきだ。」少なくとも彼は白を色として見ていた。” 『Verner Panton : The Collected Works』よりヴェルナー・パントンの数少ない「白」の作品、ぜひ体感してみて下さい。