PP Mobler

PP701

北欧モダンデザインの巨匠、20世紀を代表する家具デザイナーとして今後も語り継がれていく存在である "ハンス・J・ウェグナー"。

生涯に500脚以上ものチェアをデザインし、その多くが世界的評価を得た、まさに唯一無二の存在です。

能動的な出逢いを切り取る。

そんなウェグナーがデンマークのゲントフテに自邸を建てた1965年、ダイニング用にデザインされたのがこの「PP701」でした。

そのデザイン観については諸説が存在しており "pp518 ブルチェアの簡易版として生まれた" というものや、"自邸の建築スケジュールの為に製造を急いだことで、ウェグナー自身が小さな木片を寄せ集めてデザインを行った" という説もあるようです。

しかし特筆すべきは、このチェアを実際に見て、座った際に感じられる、極上のスムーズさ。

アームと一体になったバックシートは確かに複数の木材を寄木したもので、ウェグナーのお家芸でもある高度な削り出しが施された、まるで空気を伝う羽にように流動的で軽やかな造形です。

特徴的なセンタージョイントは、ウェグナー家具を象徴するかのようなアイコニックなワンポイント。

pp518 ブルチェアと比較するとよりコンパクトで、キラリと光るアクセサリーのようなクロスデザイン。

寄木の接合面を含めこういったディティールには別種の木材が使用されており、それぞれのコントラストを活かす事で全体の佇まいにもメリハリが与えられています。

最低限なフレームワークであるにも関わらず、アームの滑らかな形状が腰のラインにぴったりとフィットする抜群の安定感。その座り心地には驚かされるばかりです。

是非深く腰掛けてみていただきたいのですが、正しい姿勢でサポートしてくれる点で人間工学的なデザイン観が感じられ、ダイニングには勿論書斎用のチェアとしても有能な一脚と言えます。

更に脚を組んだり横を向いたりしてみると気づくのですが、時々アームや座面が身体の動きに追従しているかのような錯覚に陥る事があります。

その計算され尽くした造形はデンマークきっての名職人としても知られるウェグナーならではのクオリティと言えるでしょう。

アームと身体の感覚もゆったりと広く取られており、実際に腕を預けると普通の独立したアームチェアと比べても引けを取りません。

それでいて片手で簡単に持ち上げられる程度の重さで、空間に圧迫感を与える事もなく、まるでカフェテラスにいるかのようにカジュアルに使いこなせる等、このチェアには他のチェアには無い洗練と充実感、親しみやすさが高い次元で同居しています。

ステンレススチールのフレーム脚部もウェグナーデザインとしては珍しい仕様です。

一般的な簡易スツールと同径かそれよりも僅かに小さい径の部材を使用しているにも関わらず、実際に座ってみるとまるで体重がすっと地面に伝わっていくような感覚で、足回りもスッキリ。

使えば使う程にその優れたデザインを体感していただけるかと思います。

シートは黒ヌメ革の"オイルダコタ"で張り替えを行っておりますので、新品に近い使い心地。

伝統的な植物タンニン鞣しと現代のクロム鞣しのコンビネーションによって仕上げられた、天然皮革特有の繊細な表情に加え洗練された質感をも併せ持つオイルダコタ。

更に内部に豊富に含まれたオイルが一般的なレザーよりもゆっくりと表面に表れてくるという性質から、永く使う家具として理想的なペースで育てていけるという点も魅力的です。

「PP701」はウェグナーが自身の為にデザインしたチェアでしたが、特にウェグナーの妻であるインガ夫人にとってのお気に入りであった事でも有名ではないでしょうか。

ラウンド型のダイニングテーブルにすっと収め、空間の一部となって馴染むその姿を目の当たりにした時、ウェグナーがこのチェアに与えた造形と機能美、彼の人生そのものが反映されたかのようで、その能動的な関係性を感じずにはいられません。

ウェグナーデザインの"新しい境地"とも言い表される名作チェアを、是非この機会にお迎えしては如何でしょうか。