Herman Miller
Panton Chair
多くの名作が生み出され様々なデザインで飽和している現代。
デザインは更新され続け過去のものは日々古くなっていきます。
それでも名作と呼ばれるプロダクトは今尚変わらない新しさを放つもの。
今回ご紹介させて頂くチェアもそのひとつ。
試行錯誤の末に完成されたミッドセンチュリーを代表する名作です。
軽やかで力強い永遠
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プラスチック一体成型で椅子としての目的を果たすデザインされた物体。
様々なシーンで見かけるプラスチック製のチェアですがそれを叶えることは決して簡単ではありませんでした。
その代表的なチェアが今回紹介させて頂くチェア、通称パントンチェアです。
椅子を構成する背と座と脚のすべてのパーツがひとつになったオブジェの様なフォルムは誕生から今日まで多くの人々に驚きを与えています。
このチェアデザインを手掛けたのはデンマークを代表するデザイナーのひとり、ヴァーナー・パントン。
革新的で未来的なデザインに執着しエキゾチックで近未来的なデザインを手掛け、多くの名作を残した名デザイナーです。
パントンチェアはそんなパントンの残した代表的なプロダクト。
当時の主流であったチェアデザインを覆す程の圧倒的なデザインは構想から10年以上もの歳月が費やされ完成された苦悩の作品でした。
先ず第一にこのデザインの椅子を製品化できる製造元がありませんでした。
曲線で構成された繋ぎ目のない一体成型の椅子をプラスチックで製造することは、当時の技術では限りなく不可能に近かったのです。
完成させる為に多くの課題をクリアしなければならなかったパントンチェア。
このチェアの完成は無謀とされ、20社もの製造元に断られていたとのエピソードも残っています。
強度面とデザイン面の両立を目指し試行錯誤を繰り返したパントンチェア。
最初のプロトタイプはガラス強化繊維にポリエステルを塗り込んで仕上げるという、職人による手仕事を要す仕様だったそう。
一般に公開されたのは1967年の事。
以降パントンチェアは異なる4タイプのプラスチックで製造されています。
コストのバランスと見た目の良さを叶える為には様々な手法や材料を使う必要があったようです。
結果パントンが満足することはありませんでした。
プラスチック製の椅子を手ごろな価格で量産するという目標には到底及ばなかったのです。
パントンチェアが自身の理想の形になったのはその20年以上も後の事。
プラスチックと射出成形の技術革新によりパントンチェアをローコストで製品化する事が出来る様になります。
ようやく完成した苦難のパントンチェア。
それはパントンが亡くなった直後の事でした。
今回入荷したのはヴィトラ社が生産を開始する以前、ハーマンミラー社(スイス工場)が1971年から1979年という短期間に生産を請け負っていた時代の希少なビンテージアイテム。
パントン自身にあった理想の一歩手前の作品と言うことでしょうか。
着色された熱可塑性ポリスチレンで形作られており、現行の着色ポリプロピレンと比べるとコストがかさんでしまっていた様です。
しかしながらこの一脚は現行タイプには無い魅力で溢れています。
艶やかな質感はパントンチェア特有のラインを強調し、鮮やかなカラーリングはパントンが叶えたかった未来の様。
この一脚を叶える為に気の遠くなるほどの時間と努力が掛けられていたことが伺えます。
パントンチェア完成はパントンひとりの夢ではなかったはずです。
今尚新しく映るパントンのデザイン。
真新しく新鮮に見えるそれらは長年の努力によって生み出された試行錯誤の結晶でした。
前例のない物を作り出すというのは現代では経験できないことかもしれません。
そのポップでユニークなルックスからスペースエイジと一言でくくられる事も多いチェアでもあります。
それでもこのチェアには一言で形容できない未来と可能性を感じずにはいられません。
今ほど自由度の高い素材が無かった時代。
有りものと努力で叶えられた自由は今尚強烈な魅力を放ちます。
だからこそミッドセンチュリー期の名デザインは軽やかで力強い永遠を感じさせるのだと思います。