TOLIX
A-chair
少しずつ、暑さにようやく慣れて来た感じがします。
それはすなわち、汗をかきなれたという事でもあります。
あまり意識はしませんが、やはり身体への負担はすぐに適応できるというものでは無い事を実感しますね。
今回のご紹介はクールでワイルド、でもどこか軽妙な雰囲気の1脚。
長年愛されたその理由を、少しでもお伝え出来れば幸いです。
Quatre-vingt dix ans
サブタイトルは、フランス語で90年を意味する言葉。
無理やりカタカナにするならキャトル ヴァン ディ ザンという所でしょうか。
今回の椅子が発表されてから、実に90年が経っているのです。
製造したのは、フランスのファニチャーブランド トリックス | TOLIX。
1927年、フランス東部のブルゴーニュに設立されました。ワインの名産地としても有名な地域ですね。
デザイナーでもある設立者、グザビエ・ポシャールは父、祖父とトタンの屋根の製造に携わっていました。
現在は技術も進歩し、亜鉛単体をメッキするトタンはあまり見られなくなりましたが、ポシャールは当時耐久性を高めるために使われた亜鉛メッキの技術を家具に応用する事を考え実践します。
そうして作られた椅子は高い評価を得て、少しずつ改良が加えられていきました。
そうして、1934年に発表されたモデルが今回のAチェアなのです。
これだけの年月が過ぎて製造が続けられているのは、メッキだけの話ではありません。
様々な機能がありますのでご紹介させて下さい。
フレームはスチール。インダストリアルを代表する素材で強度がありますが使い方によっては重さが目立つものも多いところ。
このチェアはスチールの端を折り返す事で少ない量で強度を担保。
そして背もたれや座面は中空のパイプ形状にする事で取り回しの良い軽さを実現しています。
安定してスタッキングが出来る形状。
背もたれ左右の隙間、そして前脚は被せるようにして積み重ねが可能。脚の中程にあるくぼみによって、スタッキングした脚がずれにくいように計算されている事が分かります。
そして座面にはカフェチェアの特徴でもある水抜き孔。
石畳のテラスに出し入れをして、使いやすい頑丈なチェア。
天候に左右されないという事も愛用されるために必要だったのですね。
個人的には何か一つの要素に飛び抜けた印象が、フランスにはありません。
ただ、それは決して悪い事ではありません。
振り切ってしまうというのはある意味、考え尽くす事を止める事でもあるからです。
手探りで、言葉で形容出来ない絶妙なバランスを見つける。それがフランスらしい良さだと思います。
椅子の名前は知らなくとも、便利に、美しく、そしてゴキゲンに使ってくれる人がいる。
そうして90年続いた名脚を宜しければ是非、一度お手もとで実感して頂ければと思います。