Evans Products
EAMES LEG SPLINT by Charles & Ray Eames
家具を好きになればなるほど、不思議な現象が起きます。
最初は椅子が欲しかっただけなのに、気付けばデザイナーの生涯を調べ始めたり、当時の工場の資料を探したり、果ては家具ですらないものにまで興味が広がっていく。
私にとって、その代表格がこのレッグスプリントです。
正直に言うと、初めて見た時は「添え木」です。
椅子でもなければテーブルでもない。
ましてや生活を便利にしてくれる道具でもありません。
それなのに、なぜ世界中のコレクターが探し続け、なぜ私はその曲線を左腕の風景として選んだのか。
その理由は、この小さな添え木の中に、イームズのすべてが詰まっているからです。
家具になる前の物語

1940年代。
チャールズ・イームズとレイ・イームズは、木材を立体的に成形するプライウッド技術の研究に没頭していました。
現在では当たり前となった三次元曲線を描く成形合板ですが、当時はまだ誰も確立できていなかった技術です。
そんな中、第二次世界大戦が勃発します。

アメリカ海軍から夫妻へ届いた依頼は、負傷兵のための脚部固定具を製品化してほしいというものでした。
金属製の添え木は重く、兵士への負担も大きい。
そこで彼らは研究途中だったプライウッド技術を応用し、人体の曲線に沿う軽量かつ高強度なレッグスプリントを開発します。
結果として、このプロダクトは約15万体以上が製造され、多くの負傷兵を支えたと言われています。


そして何より重要なのは、この量産経験によって成形合板技術が飛躍的に進歩したことでした。
医療器具として培われた技術は、戦後の家具づくりへと還元されます。
1945年に発表されたLCWやDCW。
今なお世界中で愛され続ける名作チェアたちは、実はこのレッグスプリントが無ければ誕生していなかったかもしれません。
木を重ねて曲げる。
ただそれだけの挑戦が、家具の歴史を変えたのです。
私がこのプロダクトに惹かれる理由もそこにあります。

完成された名作には、どうしても結果としての美しさがあります。
けれどレッグスプリントには、その前段階の試行錯誤や執念が見える。
後のラウンジチェアやシェルチェアへ続く壮大な物語の始まりが、この小さな添え木の中に残されています。

医療器具としての役目を終えた今、その姿はどこか彫刻作品にも見えます。
人体に沿うためだけに生まれた有機的な曲線。装飾を目的としていないからこそ宿る造形美。
眺めていると、家具というより思想の断片を手にしているような感覚になります。


今回の個体は、EVANS PRODUCTSで製造された包装紙付きのデッドストック品。
台座は付いていないタイプになりますので、フックなどを使用し、壁に掛けてウォールデコとして空間を装飾するとめっちゃかっこいいです。
個人的にはサイドボード上に掛けたいと考えていますが、リビングでも、廊下でも、寝室でも不思議と様になります。
眺めるたびに、その曲線の先にあるイームズの物語へ思いを巡らせてしまう。そんな不思議な魅力を持ったプロダクトです。

家具の歴史に名を残すプロダクトは数多くあります。
しかし、その歴史の始まりそのものに触れられる機会はそう多くありません。
イームズを語るなら外せない一作。
そして私自身が心から憧れ続けている一作です。











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