HIDA
baguette Dining Chair
明日からは、幾日か暖かい日が続くようですね。
寒さ対策を考えなくて良いと嬉しい反面、じゃあ何を着ていこうと困るところもあります。
毎年この季節は、こんな三寒四温事情の繰り返し。着るものが少なければ迷う事もありませんが、増えた衣類は自分の選択の証(あかし)。すこしずつ自分の組み合わせに取り入れられるよう、賢くやっていきたいものですね。
今回のご紹介は普通に見えてふつうに見えない、そんな1脚。
宜しければ最後までお付き合い下さいませ。
伝統×新しい価値への模索
飛騨の家具。そう聞いて皆様はどんな印象を持たれるでしょうか。
恐らく多くの方が、どちらかというところのクラシックな印象の堅牢な家具を思い浮かべるのではないかなと思います。
もちろんそれは間違いではありません。さかのぼれば奈良・平安時代の都づくりで特別な立ち位置を占めた、木工の技術者たち。
飛騨の職人たちが都に派遣されるにあたって、税の一部を免除されるという厚遇からも、「木」というものの扱いについては群を抜いた存在であった事が伺えます。
そんな木とともに生きてきた地域に、1920年に創業した飛騨産業。ロゴマークから「キツツキ」の愛称で親しまれているファニチャーブランドが今回の椅子を作っています。
デザインは五十嵐 久枝(いがらし ひさえ)さん。桑沢デザイン研究所、そしてクラマタデザイン事務所を経てイガラシデザインスタジオを設立。現在も一線で活躍するデザイナーの一人です。
受賞も数多くされていらっしゃいますが、キッズ賞などに通底する「丸み」のある優しさ。そして倉俣史朗氏とも共通するような、造形や色の選び方。秋田木工との「AGITA magekko」は曲木のカーブにバイカラーの組み合わせがあったりしてとても新鮮です。
家具だけにとどまらずTSUMORI CHISATOをはじめとした空間デザインを手掛ける実力者らしい、夢のような世界を実現させる方が手掛けたチェアはどんなものなのでしょうか。
ぱっと見た印象は、「椅子」というものから大きく外れるものではありません。
ラダーバックの、四本脚の椅子。安心のある形が見て取れます。
背もたれはしっかりと、けれども優しく受け入れるカーブ。後ろ脚も含めて飛騨産業らしい老舗の曲木技術が生かされています。
座面は無垢材、しっかりと立体的にフィットするように座繰り(ざぐり)と呼ばれる加工が施されています。素朴な印象の中にもどこか踏み込んだような有機的な形が忍びます。
前脚のつなぎ目もひと手間切削が入り、見えるか見えないかの絶妙な加減でアクセントを加えるディティール。
そして座面の無垢材もちょっと不思議。約2cmのオーク無垢材が21本つなぎ合わされて見える表情はナチュラルなストライプ。ここまで細い材を繋ぐ事はまずないので、意図的に選択されたものだと思われます。
機能性・合理性だけで考えれば選択する事のないこと。意味の無い事をあえて選んだ事によって、そこに新しい意味を生み出す事。
それが、ある意味ポストモダンに代表される新鮮な驚きへと繋がっているように感じられるのは私だけでしょうか。
伝統で繋がれた「堅牢」はそのままに、新しい人との出会いによって広がる「選択肢」。是非使いながら楽しんでみて頂ければ幸いです。現在オーク材は取扱いに無い仕様となっていますので、この表情がお好きな方は是非この機会にご検討下さい。