ARATA ISOZAKI
Monroe Chair & Table
2019年、建築界のノーベル賞と呼ばれる『プリツカー賞』を受賞した日本人建築家が話題になりました。
その人の名前は"磯崎新 Arata Isozaki"氏。北九州市立美術館に代表される、ポストモダン建築で知られています。
元々はプリツカー賞を審査する立場であった磯崎氏の受賞は、その功績に対して遅すぎるとまで言われたほど。過去の受賞者である丹下健三や安藤忠雄ら、日本を代表する建築家と名実ともに肩を並べた記念すべき出来事だったのです。
今回ご紹介するのは名作椅子好きであればご存知であろう逸品。やっとインプションも出会うことが出来ました。
解体/再構築を経た肉体性
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磯崎氏の家具作品は建築に比べて多くはありません。
もっとも有名なものは、極端なハイバックが目を引くモンローチェアでしょう。
20世紀の名作椅子として必ず名前の挙がる、チャールズ.R.マッキントッシュのヒルハウスチェアを、大胆にアレンジしてしまったという挑戦的なアイテムです。正面または背面から見るとストレートラインの端整なチェアに見えます。
視点を変えてみるとモンローチェアの魅力が開花します。
ストレートに見えたバックレストには、実は女性的な曲線が隠されていました。
名前の由来となっているのはもちろん、あのマリリン・モンロー。映画「七年目の浮気」のあまりにも有名なシーンからの視覚的イメージを、家具に落とし込もうとするアイデアが既に常人の域ではありません。
既存のものを組み合わせて別の何かを作るマッシュアップ的手法には、若き日の磯崎氏に影響を与えた『ネオ・ダダイズム』の片鱗が。
大量生産された製品や廃材を利用したコラージュで、消費社会を揶揄するネオダダ。
このチェアを最初に見た時に、どこか人を食ったようと言うか、煙に巻くようなシュールさを感じたものですが、ネオダダのある種冷めた視点は無関係ではないと思うのです。
↑ Charles Rennie Mackintosh / HILL HOUSE 1 Chair
ちなみに元ネタであるヒルハウスチェアは、あまりにも直角で高すぎるバックレストのおかげで、有名だけど座りにくい椅子という不名誉な評価をされがち。
見て分かる通り、快適性を追求したわけではないので、そこは目をつむってあげて欲しい点ですが、モンローチェアはセクシーなカーブを取り入れることで身体にフィットするという、椅子本来の実用性(肉体性)が回帰しているという点も面白いですね。
そしてかなり珍しいのがモンローテーブル。チェア同様格子状のフレームがデザインの骨格となっており、4脚と揃えることで一つの構造体のような、問答無用の格好良さを放っております。
なお、長方形のモンローテーブルは天童木工の過去のカタログで発見することが出来ましたが、ラウンドは殆ど情報がないことから、プロトタイプやオーダーといった、スポット的に生産されたものと思われます。とにかく、この先二度とお目に掛かれなくても不思議ではない貴重なモデルなのです。
既存のデザインから脱却、ディテールを抽象化することで、モノの本来の意味を見つめ直した、『ポストモダン』の時代性とも合致したモンローシリーズ。
マリリン・モンローのように美しい曲線には、氏がキャリア初期に触れたネオダダからポストモダンへ繋がるストーリーが秘められていました。
時代の空気をキャッチし、新たにアウトプットし続けた建築家 磯崎新のマスターピースです。