vitra
Standard chair
ヴィトラのスタンダードチェア。
「スタンダード」を冠する以上、誰でも素直で、癖のないデザインを想像するでしょう。
実際、スタンダードチェアは非常にシンプルな椅子。
木の背板と座面にスチールフレームを組み合わせた姿は、どこか学校の椅子を思わせるほど飾り気がありません。
それなのに、なぜか目が留まる。
「定番なのに、何か変。」
本日はそんな椅子を紹介します。
定番なのに変な椅子

スタンダードチェアをデザインしたのは、フランスの建築家でありデザイナー、ジャン・プルーヴェ。
しかし、彼は自らを「Constructeur(建設家)」と称していました。
それは、ただ形を考えるだけではなく、素材の性質や構造、そしてどのようにつくられるべきかまで含めて、ものづくりに向き合う姿勢を大切にしていたからです。
家具も建築も、まずは構造や仕組みを考える。無駄なく、丈夫で、長く使えるものを追求した先に、美しい形が生まれる──それがプルーヴェのものづくりでした。
そんな彼の思想を、一脚の椅子という形で表現したものが、このスタンダードチェアです。

スタンダードチェアの印象を決定づけるのが、この特徴的な脚部。
この椅子は1934年に誕生しました。
その当時、多くの椅子の脚は前後ともに同じ太さでつくられていました。しかしジャン・プルーヴェは、座ることで生まれる力の流れに着目します。最も負荷がかかる後脚には強度を持たせ、背もたれまで支える厚みのある形に。対して前脚は細いスチールチューブで軽やかに仕上げました。
飛行機の翼を思わせるような後ろ足と、繊細な前脚。そのコントラストは、デザインのための形ではなく、構造を突き詰めた結果として生まれたものです。
必要以上の装飾を排し、素材の特性を活かし、長く使えるものをつくる。建築にも通じるプルーヴェの思想が、この一脚には込められています。

「構造がそのままデザインになる」。
スタンダードチェアは、20世紀モダンデザインを象徴するような考え方を体現した椅子です。
一見すると、とてもシンプル。しかし、その形には明確な理由がある。だからこそ、流行のアイコンとして消費されることなく、約90年経った今でも新鮮な存在感を放ち続けています。

座り心地もまた、スタンダードチェアらしく非常にシンプル。
木の背座がしっかりと身体を受け止め、背もたれの程よい傾斜が自然と心地よい姿勢へと導いてくれます。余計な機能やクッションに頼るのではなく、素材と構造だけで生まれる素直な座り心地です。
そして、座った瞬間に感じるのが後脚の安心感。大きく張り出した力強い脚部が、身体をしっかりと支えてくれる頼もしさがあります。

今回ご紹介するスタンダードチェアは、ブラックグライスのフレームに、ナチュラルオークの背座を組み合わせた仕様。
光沢のあるブラックは、空間を引き締めながらも、重たい印象になりすぎず、程よい緊張感を与えてくれます。一方で、木目が美しいナチュラルオークの背座が柔らかさを加え、ダイニングやワークスペースなど、さまざまな空間に自然と馴染みます。
素材のコントラストがありながら、決して主張しすぎない。その絶妙なバランスが、スタンダードチェアの魅力です。
シンプルな空間では凛とした存在感を、木の家具が多い空間では素材の温かみを引き立てる。暮らしのスタイルを選ばず、長く付き合える一脚です。

考えてみれば、この椅子がどこか学校の椅子を思わせるのも不思議ではありません。
ジャン・プルーヴェが目指したのは、特別な場所だけに置かれる芸術品ではなく、丈夫で、合理的で、誰もが長く使える「標準」となる椅子でした。
その思想は、後の公共家具や学校家具にも通じるものがあります。
つまりスタンダードチェアは、学校の椅子に似ているのではなく、私たちが思い描く「普通の椅子」の姿そのものを形づくった存在なのかもしれません。
しかし、その「普通」の中には、決して普通ではない発想が潜んでいます。
シンプルかつ大胆。
必要なものだけを残した潔い姿。そこに宿る構造の美しさと、わずかな違和感こそが、この椅子を90年経った今でも新鮮に見せています。
定番なのに、なんか変。
それは、当たり前の形をつくりながら、今では誰もが見慣れたものとは少し違う、新しい基準を生み出した椅子だからなのかもしれません。































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