Vitra
Allstar Chair
つい先日、スペースエイジの書籍が手元に届いて読みふけっておりました。
スペースエイジの盛り上がりの元になった、宇宙開発競争が加熱した1950年頃から1970年半ば。
世間もその熱狂的なエネルギーに当てられて、直線と曲線、サイケデリックな色調や幾何学的な連続性のあるアイテムが数多く生み出されました。
現代では、レトロ(懐古的)フューチャー(未来)と、その熱狂を盛り上がりの外から俯瞰的に見るようなメタなブームも根強く続いています。
今現在は、スペースエイジに関わらず、さまざまなテイストや好みを自分なりに選択しミックスしてゆくそんな目まぐるしい時代。当時のアイテムを集めて当時の熱狂に浸るのも勿論素敵ですが、そこに現代のアイテムを混ぜ合わせ、自分の価値観を作り出している人のお部屋はワクワクする魅力に溢れています。
未来はいつか過去になる。そんな中でも過去を引き継ぎ新たに生まれるアイテムが今回ご紹介の1脚。
宜しければ最後までお付き合いくださいませ。
多くを満たす現代のレトロフューチャー
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今回のご紹介は世界的に著名なファニチャーメーカー、ヴィトラ社の1脚。
設立は1950年。「デザイナーズアイテム」という概念が一般的になるのと同じ時を過ごしてきた、老舗企業の一つです。
デザイナーはコンスタンチン・グルチッチ(Konstantin Grcic、1965~)。現在も精力的に活躍するプロダクトデザイナーです。
ドイツに生まれ、イギリスのJohn Makepeace Schoolで家具職人としての腕を、RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)ではデザインを磨き、現在最も影響力のあるデザイナーの一人とも呼ばれるジャスパー・モリソン事務所での活動を経て独立。現在50代半ばですが、コンパッソ・ドーロやレッド・ドット賞、iFデザイン賞など数多くの著名な賞を受賞しています。
あとこれは余談ですが、とってもイケメンです。
氏のデザインには、曖昧さというものを排除した潔さを感じられるアイテムが多くあります。
クラシックで合理的な形は踏襲しつつも、新しい機能を持ち込んだり、新しいテクノロジーで可能になった要素を巧みに取り込む編集力の高さが伺えます。(マジス社の「チェアワン」や、フロス社「メイデイ」などは見たことがある、という方も多いのではないでしょうか。)
今回のオールスターもそんな透徹した見極めから生まれた1脚。
特徴的なのは背もたれと座面が離れたシートと、一筆書きのような強い印象を持つアーム。
このアームはポリアミド製。ナイロンといったほうが馴染みがよいかもしれません。
フランスの老舗化学メーカーデュポン社によって開発された合成繊維ですが、どちらかというと洋服のイメージが強いのではないでしょうか。蜘蛛の糸より細く、絹よりも美しく、鋼鉄よりも強いと呼ばれるこの繊維は自動車のエンジンカバーやシートベルト、釣り糸などにも使われる強靭なもの。
それをアームに使う事で、美しい緊張感を持つフォルムをはじめ、さらさらとした手触りや発色といった、新しい組み合わせ可能にさせたのです。
シートにはやや固めのクッションが用意されています。座り疲れしにくい程よい硬さのため普段使いにもピッタリ。「テレワークで椅子は欲しいけど、カジュアル過ぎるのはちょっと・・・」という方にお勧めできる、心憎いバランスです。
ガスシリンダーによる昇降機能、背もたれの高さ調整(12段階で約5センチ)、シートの奥行き調整(6段階で約5センチ)、リクライニングON/OFF機能など、オフィスチェアに必要とされる機能は十分に網羅。
5本足のキャスターはスムーズで、安定感のある座り心地です。
オフィスチェアにある固定観念に縛られることなく、心地良く親しみやすいデザインを念頭に設計されたオールスター。
ひょっとするとそのネーミングにはあの名作キャンバスシューズが関係しているのかも。
そう考えるとグルチッチ氏の願いと、ちょっとしたイタズラ心が見えてくるような気もします。
新しく、懐かしさもあり、実用的でもあり、そしてとってもチャーミング。多くの人の理想を包み込んだ1脚です。
使っていてワクワクするようなワークチェア、お部屋にいかがですか?