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Amoebe Lounge Chair
最近ふらっと見ていた動画。錆び付いてとても使い物にはならない製麺機の錆を取り、フレームを磨き、劣化した木製パーツを切り出し、組みなおしたそれは見事な修復。
ところが風向きはそこから変わり、鍋を出し、野菜を切り、チャーシューを仕込みカエシを作ってスープを作る。あれ?と思った時には自家製麺も含めた見事な中華そばが出来上がっていました。
いったい動画主は何を生業にしている人なんだろうと、不思議に思わずにはいられない一瞬を過ごした先日でした。
思いがけない展開には、抗いがたい強いパワーとそれに伴う魅力がある。
時代の流行り廃りはその繰り返しによって成り立っていると実感させてくれる1台が今回のご紹介です。
宜しければ最後までお付き合い下さい。
ケルンで花開いた宇宙
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皆さんは「スペースエイジ」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
スペースシャトル、アポロ13号、キューブリック、スタートレック、スペースシャワーTV、流線形、etc。
かつて常人がたどり着ける場所ではなかった宇宙も、今では民間ベンチャーによる旅行まで可能な段階まで来ています。このブログを書いている私は現在30代半ば。そんな私から眺めるに宇宙は一握りのエリートと成功者によって味わえる、
たとえるならハワイの何倍も贅沢な旅行先。そして大国が次の覇権を握るための近い将来の足掛かり。
皆様はどんな印象を思い浮かべるでしょうか。
人が宇宙に思いを馳せるのは原初から変わりは無さそうですが、技術の進歩によりそれが現実的になってきたのは20世紀の半ばごろから。
ミッドセンチュリー期に勢力図を争っていたアメリカとソ連が、軍事競争の一環としてかかわりの深い宇宙航空技術にしのぎを削り、ソ連は人類初の人口衛星スプートニクの打ち上げに、アメリカは人類初の月面着陸に成功しました。
今まではただ見上げるだけで詩にするぐらいが関の山であった想像の世界が、急に目の前に落ちてくる。
一体どんな感覚であったのでしょうか。想像するのも難しいですね。
ただ確かに言えるのは、世界全体が上向きであった事。高まる国力、開発される新技術、通信の向上によって狭まる世界とそこに生きている人たちが向上のためにエネルギーを振り絞っていました。
インテリアの世界についてもその影響は出てきます。プラスティックをはじめとする樹脂、硬質発砲ウレタンの吹付による自由な造形、成型合板など木工技術の進歩はデザイナーに刺激を与え、モダンからミッドセンチュリー、ポストモダンへと変遷するその中に確かに影響を及ぼしていたのです。
向上心にあふれた人々が家具というエレメントに求めたのはクラシックよりも革新性。その先端を歩んだデザイナーによって作られたのが今回の1脚です。
デザイナーはウェルナー・パントン。デンマーク出身のプロダクトデザイナー、建築家です。世界で初めての完全一体型の椅子パントンチェアをご存じの方もいらっしゃることでしょう。
デンマーク出身のそれまでのデザイナーと異なるアプローチを試みた氏のデザインは、深みを目指し掘り下げるベクトルだけではなく、新しく切り開くベクトルの側面を多く持っています。
今でこそ一般的ですが、1970年の発表当時鮮烈だったであろう一体型のフォルム。サーリネンのチューリップシリーズなどにおいても言える事ですが、切れ目のない形はよりインテリアを生き物という認識に近づけてくれます。
優雅に座る脚を想像させる座面のカーブ。幅は約63センチと十分に取られていますので身体全体を預ける事が出来ます。
背もたれも背中のカーブに沿うようにゆったりとした丸みを持っています。硬さのあるラミネートフレームをベースにウレタンフォームが付けられている事で、受け止められている感覚をより感じられます。
背もたれと座面の境目にはスリットが設けられているのでしなりをより感じやすく、生地が引っ張られにくいというメリットを兼ねたデザインも。
奇抜な美しさだけではなく、使う人に配慮があるデザインこそパントンのデンマークらしさかもしれません。
日常にはない形が生き物のように存在して、空間を彩る異次元。
目の前に落ちてきたけれどもまだ遠い、宇宙を表すのにぴったりな家具であったに違いありません。
ケルンで行われたヴィジョナ展。アムーベはそこでデザインのエレメントとして発表された1脚。
お時間があれば是非 ヴィジョナ展 で画像検索をしてみて下さい。デンマーク人の名デザイナーが思い描いた宇宙がそこにあります。
宇宙のひとかけらをご自宅に、是非いかがでしょうか。