Louis Poulsen
PH3 1/2-3
世の中にデザイナーによる名品は意外と多く隠れています。
日本で言えば、横浜の市営地下鉄におけるベンチや今は無き紙の券売機、キオスク等売店に使われていた店舗デザインは柳宗理によるもの。毎日飲んでいる人もいるであろうヤクルトの容器は剣持勇によるものです。
九州・鹿児島空港の待合スペースはイームズによるシェルチェアが700脚以上、タンデムシートで利用者を迎えてくれます。
これらのアイテムに共通することは、古びない事。
ならば、そのためにはどんな要素が必要なのでしょう。
今回は名作照明のご紹介。宜しければ一緒にお付き合い頂けますと幸いです。
形容できない美しさ≒自然
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今回はルイスポールセンより、PH3 1/2-3のペンダントライト。
デンマークで長く愛されている照明のひとつです。
1874年に首都、コペンハーゲンにて設立されたルイスポールセンは世界をリードするライティングブランド。1920年にポール・ヘニングセンとの出会いを契機に、優れた作品を多く世に送り出しています。
現代屈指のデザイナーたちと協働する中でも、用いる人が心地よくいられる照明という点は共通しており、ポール・ヘニングセンとの間で紡がれたそのデザイン思想を受け継いでいることを強く感じられるライティングメーカーであり続けています。
ルイスポールセンといえば定番であるPH5。この頭にあるPHというのは「"P"oul "H"eninngsen」の頭文字かと思われますが、このPHとよばれるシリーズは共通して使われている仕組みがあります。
それが、システムPHと呼ばれるもの。1926年に開発されたその目的は光を心地よさのためにコントロールすること。
その中身は3枚のシェードにあります。シェードは大きさやその開きが異なりますが、これは「対数螺旋(たいすうらせん)」という理論によって導かれたものです。
牛や羊の頭にある巻き角、アンモナイトやオウムガイのような巻貝も同じルールで出来上がっています。これを照明に当てはめると一体どうなるのか。
答えの一つは、光を広げるためにある光源が直接目に入らなくなること。
裸電球でも太陽でも強い光を直接目にしていると、目を離してもサイケな影のようにまぶたの裏に残りますよね。便利に暮らすために部屋を照らす光は必要ですが、人の目ではそのままの光は強すぎるようです。
例えば警察の取調室でテーブルライトを片手に尋問される。ドラマの定番ですが、強い光によって身体は確かに不快を感じているのです。
言われなければ中々気が付きにくいことですよね。
ただ、眩しくないだけでは役には立ちません。お部屋の空間を確かに照らすためには光量も必要です。
そのために採用されているのが、今回のガラスシェードです。
光を完全に遮るアルミ等のシェードと異なり、透明度の高いガラスは内から外に向けて光を透過させます。
そして光を捉えるフィルターであるためガラス自体も光を放ち、ほのかにぼんやりとしながらも明るいお部屋に引き上げてくれる。
先述のPH5が対数螺旋の心地よい光にアルミシェードの組み合わせで陰影のある雰囲気を楽しめる1台だとするならば、今回のPH3 1/2-3はより普段に使いやすい1台だと言えそうです。
ガラスシェードは職人による吹きガラス。外から透明・乳白色・フロスト加工の3層となっています。
ガラスらしくつややかな外側、真ん中の層で光をキャッチ、内側は強い光を柔らかく拡散してくれる。
考え尽くしたアイデアを最良の素材と技術で実践する。それはマスターピースと呼ばれるに相応しいクオリティです。
ちなみにシステムPHなど光をコントロールする術を得たヘニングセンは、戦時中チボリ公園のために遮光(しゃこう)ランプを考案しています。
多くの国が隣り合うデンマークで、空爆を避けるためには目印となる灯りは厳禁。ですが、自分が培ったノウハウを人々の暮らしに役立てたい。
光を上方に漏らさず安全に使える遮光ランプによって、ふさぎ込みがちな人々の暮らしが明るくなったことは間違いありません。
ポール・ヘニングセンはデザイナーとは別に評論家の一面も持っていましたが、その弁は相当な辛口だったそうです。
美しさに誠実だからこそ、人には厳しく、そしてそれ以上に自分に厳しかった。残された作品を目の前にするとそう感じずにはいられません。
自然の仕組みを使って機能的にしたフォルムにわざとらしさは微塵もなく、だからこそ古びることも無いのでしょう。
今回は真鍮のきらめきも綺麗に残る良好なコンディションでの入荷となります。
お探しだった方はどうぞこの機会に。名作と呼ばれるデザイナーズライティングのご紹介でした。