Knoll Studio
CESCA CHAIR
Mart Stam(マルト・スタム)が先か、Ludwig Mies van der Rohe(ミース・ファン・デル・ローエ)が先か、それともMarcel Breuer(マルセル・ブロイヤー)か。
バウハウスやその周辺で活躍していた彼らが取り入れた「カンチレバー(片持ち)構造」。
そのミニマルなすっきりとしたデザインの裏には、ちょっぴり複雑な歴史が隠されていました。
三つ巴の一角
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ラタン素材の流行にも後押しされ、世代を問わず高い人気を誇る「チェスカチェア | Cesca Chair」 。
デザインの誕生は1928年説と1929年説があり、自身の愛娘・Francescaの名前からチェスカと名づけられています。
どの角度から見ても美しい直線的なフレームライン。機能美を重視した最小限で構成されるフォルムは、見飽きることがありません。
また、籐張りという自然素材がミックスされることで、合理的という少しおごそかなイメージをもつバウハウスデザインをより身近に感じられる気がします。
さらに、カンチレバーが生み出すしなりのある着座感はやはり心地良い。しっかりと奥行のある座面は、深く座るほどに快適さを増すようです。
が、実はこのカンチレバー構造をめぐっては、スタムとブロイヤーの間で著作権争いなるものが勃発していました。
自分が先に作ったのだというどちらも譲らぬ主張をかけた裁判の勝者は、スタム。少々実験的ではあったものの、ガスパイプチェアなる原型を生み出したのは彼が先だったようです。
ただ製品化や実用化という観点で言うとブロイヤーの方がファーストプロダクトだという見方もあるようで、どうやら一筋縄ではいかないようです(ミースさんはこの争いには登場しませんでした)。
しかもこのチェスカチェアは正規品が現在2ブランドで製造されています。ひとつが曲木で有名なTHONET(トーネット)社、そしてライセンス製造を行うKnoll studio(ノルスタジオ)。
今回は後者の2022年製・機械編みモデルとなります。実使用期間の短いグッドコンディションの1脚です。
せっかくお家に迎えるなら、デザインも座り心地もこの椅子が辿った歴史もすべてひっくるめて手に入れたい。バックボーンを知れば知るほど、名作椅子たる所以やその深みが愛着へと変わっていくから。
個人的にはこういう裏話がある方が、そのアイテムを理解できた気がして嬉しくなります。
もちろん下された判断は最初の椅子ではなかったかもしれませんが、現在では「最も有名な金属製チェア」としてその名を馳せることになりました。
バウハウスの理念と娘のように愛する思いが詰まったチェスカチェア。複雑な過去を1ミリたりとも感じさせないこの佇まいは圧巻です。