Cassina
646 Chair
イタリアの名門ブランドにしてモダンファニチャーの最高峰と言われる"カッシーナ Cassina"。
ル・コルビジェ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャンヌレを始めとする巨匠デザイナーと共に数々の世界的名作家具を生み出した、まさにモダンデザイン家具の歴史を創り上げたとも言える存在です。
本日ご紹介させていただく「646 チェア」は、そんな同社の転換期とも言える時期に生み出された、カッシーナファンにとっても特別な一脚。
是非この機会にご覧になっていってください。
屈託のない軽快さに込められた、伝統と革新。
錚々たる巨匠達と共同で家具作りを行ってきたカッシーナですが、同社が初めて社外にデザインを依頼したのは凡そ1950年代頃のこと。
その人物とは、建築デザイン界で初となる専門誌「ドムス」の創立者であり、建築、家具、カトラリーやエスプレッソマシン等のテーブルウエアに至るまで多彩且つ優れたデザインを手掛けた、イタリアモダンの父 "ジオ・ポンティ"でした。
そこから長い歳月をかけて誕生したのが、かの世界的名作「699 スーパーレジェーラ チェア」。
なんと総重量1700グラムという当時世界で最も軽量なチェアで "指一本で持てる"という軽さ。更に木材という一般的な素材を用いながらも、カッシーナ本社の3階の高さから落としても耐えうるという屈強な堅牢性を持ち併せています。
デザイン構造共に、これ以上なく完璧といえる"ミニマム"を極めたデザイン。
スーパーレジェーラ チェアは世界中にイタリアモダンの存在を示した他、発表から半世紀以上が経過した現代においても多くの建築家やデザイナーから憧れを集めており、ジオ・ポンティにとっても自身を代表する作品の一つとなっています。
今回ご紹介する「646 チェア」は、そんな "699 スーパーレジェーラ チェア" の原型となった重要な一脚。
究極と言えるほどにフレーム厚を削ぎ落したスーパーレジェーラ チェアと比較すると 少々緊張感の和らいだ肉厚さを残すこちらの一脚ですが、やはり非常に洗練されたフレームワーク。手に持ってみても羽に触れるような軽さが感じられます。
そのデザイン観はスーパーレジェーラ チェアのものと全く同じ道筋にあることが伺え、現在もカッシーナによって大切に作り続けられている名品として納得の一脚です。
このデザインのモチーフとなったのが、イタリア北部に位置するリグーリア州、キアーヴァリで伝統的に作られていた軽量椅子。
脚部と背もたれがすらりと伸びてゆくスタイリッシュなフォルムが特徴的で、イタリアを代表するチェアデザインとして一度は目にした事のある方もいらっしゃるかもしれません。
伝統的には"ブナ材"で製作されてきたキアーヴァリのチェアですが、ジオ・ポンティは敢えて素材にアッシュ(トネリコ)を使用する事で、更なる強度を確保しています。
アッシュ材は木材の中でも粘り強い特性を持ち、これから極限まで削ぎ落されるフレームの素材としてぴったりの良材。
イタリアの伝統をより磨き上げる形でその姿を現した「646 チェア」ですが、そこには「日常的に使うチェアをミニマムなものにする。」という、戦前のイタリアとは全く異なる観点が存在しているようで、とても興味深いです。
驚くべきは、軽量でありながら座った際に感じられる快適性の高さ。
手に取った時の軽快さとは裏腹に、座ってみるとふっくらとしたシートで身体がほっと休まる座り心地となっています。
これは、座面周りのフレームにエラスティック製のベルトを張り、その上にモールドウレタンのクッションシートを備えるという、2つの組み合わせによるもの。
モールドウレタンは完全に独立した型の中で個別に製造される為、大きな塊を切り出す通常のウレタンと異なり半永久的に使えるとも言われており、新幹線や飛行機等の座席にも採用される等、公共の場所においても実用的な素材として知られています。