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Chair 611
白いTシャツにベルボトムのデニム。サングラスをかけて、足元はサンダル。傍らには犬がいて、ちょっとだけ斜に構えてこっちを向いている写真。
たぶん20代前半くらいのその男の人は、若かりし頃の自分の父親。
違和感を覚えたのは、スーツ姿のイメージが強く、当時の流行にのったカジュアルな父なんて見慣れていなかったから。そして、それがたかだか犬の散歩中に撮った一枚だったから。
いやほんと、ドのつく田舎の田んぼのあぜ道で、どんな格好してんねんという衝撃。今でも脳裏に焼き付いています。
変わらない本質
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昔の写真ほど恥ずかしいものはありません。流行が顕著に表れる髪型や服装なんて、特にです。と同時に、懐かしさが呼び起こされるのもまた事実。
今ではビンテージとなったこの椅子を見たアアルトも、昔を懐かしむような気持ちを芽生えさせるのでしょうか。
1929年に、北欧はフィンランドの建築家、Alvar Aalto(アルヴァ・アアルト)がデザインした「Chair 611」。
あの代表的なスツール60が1933年生まれ、アアルトが設立に携わったArtek(アルテック)社が1935年生まれと考えると、氏が有名になる前の初期の作品ということが分かります。
実際、当初はアルテックではなくFINMAR社で製造されていました。
611といえば、この形。ご覧の通り現行ではウェービングベルトが張り巡らされたチェアが販売されていますが、ウェービングが誕生したのは、1950年代はじめのこと。実はもともとは板座だったそうです。
フィンランドの自衛団ビルのために作られたデザインで、その汎用性の高さからその後さまざまな仕様で生産されたといいます。
ブラックに塗装されたフレームに、淡いライトブルーのファブリックをまとったビンテージ品。
おそらく1970~90年代頃に作られたと思われるこの仕様は、イメージを覆すどころかまるで別ものです。
さらに、特筆すべきは、現行にはないパーツがたくさん付属している点。背面後ろにはブックホルダーとフック、さらに座面下には隣の椅子とを連結させる金具。
ホールのようなパブリックスペースにずらりと並べられた姿が目に浮かびます。
ご自宅で使うなら、読みかけの本を背中に挿して、毎日使うバッグなんかを掛けてみたりして。
ちなみにブックホルダーに試しにリモコンを入れてみたらぴったり。ちょっぴり生活感は出ますが、3cmの隙間に収納できるアイテムは意外に多いのかもしれません。
もちろんスタッキングも可能。パーツは増えども重なり合ったときの安定感や美しさは健在です。
現在のイメージが固定されていればいるほど、昔の姿とのギャップは大きいもの。とはいえ現行の洗練された軽やかな風貌も素敵ですが、どこかレトロ感を残したビンテージもよいものです。
プライウッド、ファブリック、レザー(PVCかもしれません)、そしてウェービングと、時代や求められる場所に合わせて変化してきた611。
纏うものによって外観は変わっても、本質は変わらない。デザインも人もきっとそうに違いありません。
611 ファブリック×ペインテッドウッド A
611 ファブリック×ペインテッドウッド B